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ウチの弟の架空生物考察

作者: 庵アルス

 我が家は親の帰りが遅い為、夕飯は基本、僕か弟の(こう)が作る。

 今日は僕が当番の日。冷蔵庫の中に、豆腐と挽肉が残っているのを見つけた僕は、振り返って洸に訊ねた。

「晩ご飯、麻婆豆腐でいいー?」

「麻婆豆腐()いいー!」

 無邪気な返事にやる気が出てきた。洸が、図書室から借りてきた本を広げ、食卓で勉強している姿を対面式キッチンから眺め、僕は調理に取り掛かる。

 僕の調理中、洸は黙々と読書をしながら、時折ルーズリーフになにか書いている。

 ちらっと見ると、読んでいるのは疫学の本らしかった。この前のダーウィンの進化論の本といい、弟は僕の知らないことをよく調べている。

 麻婆豆腐と中華スープが出来上がった。親からは先に食べててと言われているので、洸に声を掛けて勉強を切り上げさせる。

 片付いた食卓にふたり分の食事を用意して、いただきますをした。

 大皿に盛った麻婆豆腐を、僕が自分のご飯茶碗によそったそのとき、

「ゾンビってウイルス感染なんだよね?」

 洸はそう話し始めた。

 ドラゴンに続き、今度はなんだ。

 疫学の本を読んで、ゾンビの話題?

 ウイルス感染というならば、確かに疫学が深く関係しているだろう。けれども、だからといってゾンビはひと言も出てこないのでは?

「ごめん、わかんない」

 僕はホラー系が大嫌いなので、ウイルス感染かどうかもよく知らない。

「あ、兄ちゃんホラー嫌いだもんね。でも聞いたことない? ゾンビに噛まれた人がゾンビになるの」

「まぁ、そうらしいとしか知らない」

 弟はホラーが好きでも嫌いでもないので、友達の家に行って、ゾンビを倒すゲームをすることもあるらしかった。

 だから、ゲーム内でとはいえ、その場面を見たことあったのだろう。

 しかし、そうでない僕に、あまり想像させないで欲しかった。

「ゾンビってね、生きてる人に噛み付いて殖えるんだよ。でもおかしいよね?」

「なにが?」

 前回同様、僕はまた返事を間違えたかもしれない。なにがと先を促すのではなく、まずは食べろと食事を促すべきだったろうか。

 洸は茶碗と箸を手に、つらつらと話し始めた。

「人間の口内に毒腺はないから、ウイルス感染だとして、付けた噛み傷からウイルスが侵入することになるでしょ? そうなるとゾンビの唾液中にゾンビウイルスいることになるじゃん。動く死体なのにだよ? 代謝しないゾンビが唾液出すわけなくない?」

 そう言われても、僕は麻婆豆腐をのそのそと咀嚼しながら、頷きさえできない。

 というか、咀嚼もままならない。

「その話、ご飯の後じゃだめ?」

 ウォーキング・デッドの話は食事中に聞きたくない、とキッパリ言うと、弟は「そっか」と頷いた。

 そしてもちろん、食後に再開されるのだった。

2021/02/19

ホラーゲームもゾンビ物もやらないどころか、ゲーム全般苦手です。

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