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実験開始

「これを御馳走になってもいいのですか?」


 高級料理が食堂のテーブルに並んでいるけれど、特にお肉が魅力的。ローストビーフが分厚過ぎる。何のソースだろう? わからないけど美味しそう。


「あぁ。ただし葡萄酒に惚れ薬を入れる。私の変化の観察は忘れないでくれ」


 えぇー。長官を見ながら食べないといけないの? 確かさっきの書類に効果について書いてあったな。


「効果が出るまで時間がかかりますよね。今日は変化がないかもしれません」

「食事が終わってすぐ帰れると思うな。何の為に魔法石を渡したと思っている」


 やっぱり自宅を設定したのは失敗だったか。でも自宅を設定しないと意味がないよね、こういうのは。


「わかりました。長官に言われるまで帰りません」

「この家には他に誰もいない。長居しても問題はない」


 誰もいない? そうするとこの料理は何処から出てきたのさ。


「料理は契約している料理人が作ってくれる。魔道具で適温を保持するから数日なら品質も問題ない」


 あ、疑問が顔に出ちゃったか。でも仕方がないよね。長官が料理するとは思えなかったんだもの。しかし適温を保持する魔道具って初耳なんだけど。さっきまで料理の上に被せていたあれが魔道具なのか。


「これは数日前から置いてあるのですか?」

「実験するとわかってから依頼したに決まっているだろう。どうして独身の男が二人前を何日も放置すると思ったのだ」


 それもそうだ。考えが至らなくて申し訳ない。多分空腹で頭が回っていないんだ。きっとそうに違いない。


「それでは早速頂いてもいいですか」

「待て。まずは薬を葡萄酒に入れてからだ」


 勿論忘れていませんとも。だけど、長官の手の動きが怪しい。この人、開栓した事がないのかな。


「葡萄酒は私が注ぎましょうか」

「いい。魔法で開ける」


 うわー。ソムリエナイフを放置して魔法でコルクを抜いちゃったよ。これだから魔法を自由に使える人って嫌だわぁ。でも綺麗にコルクが抜けたからいいか。あのラベルは高級品だもの。味を期待してしまうってものよ。

 葡萄酒に入れる惚れ薬の量は瓶の半分か。何故一回分を瓶に詰めなかった? 二回分にする意味がわからない。だけど今は見逃しておこう。空腹でお腹が鳴りそうだ。


「赤だと薬が入っても色の変化はわかりませんが、白でも大丈夫なのですか?」

「問題ない。不安なら残りを白に注いでもいい」

「いえ、大丈夫です」


 白の高級葡萄酒は気になるが、それをうっかり口に運んだら大惨事だ。余計な事はしないに限る。長官は入れ終わった惚れ薬の瓶を再び胸ポケットにしまったが、本当に収納場所はそこでいいのか? これから酒が入るのに? 長官も酔わない人なのかな。その辺全く知らないわ。


「乾杯はしなくてもいいよな」

「構いません」


 惚れ薬の実験成功を願って乾杯と言うのもおかしい気がする。別にグラスを少し上げるだけだから、やろうがやるまいがどうでもいい。私は早く飲みたい。だけど長官が呑気にコルクを魔法で元に戻しているから、待つべきだよね。しかし何て便利なの。私はもっと日常で使える魔法を覚えるべきかもしれない。


「では頂こうか」

「はい、頂きます」


 うーん。美味しい。渋みが少なくて飲みやすいわ。高級品は微妙って聞いたけれど、これなら一本飲み干せちゃうよ。いや、勿体ない飲み方をしてはいけない。そもそも閉栓されたのだからおかわりはない。任務を全うしようではないか。


「味に違和感はありませんか?」

「ない。無味無臭だと資料に書いてあったはずだが」


 読みましたー。ごめんなさい、話題がなかったもので。もう面倒臭いから無言で食事を楽しもう。これ程の料理はなかなか食べられないし。そもそも観察するのに会話はなくてもいいはず。


 何を食べても美味しいなぁ。長官ともなるとこれ程のものを毎日食べられるのか。羨ましい。いや、ちょっと待って。十日間これを食べ続けたら、元の食事に戻れなくなってしまうのではないだろうか。それは困る。


「長官は普段からこのような食事をしているのですか」

「いや。女性を招くので相応しい料理をと言ったらこうなっていた」


 あぁ、料理人に三十歳過ぎても独身なのを心配されていたのか。きっと料理人は大切な人を呼ぶと勘違いしたんだろうなぁ。ある意味惚れ薬の実験だから遠くはないけれど、十日間の約束だから申し訳ない。


「明日からは普通の食事にして下さい。私は庶民なのでこれが毎日は辛いです」

「わかった、明日の朝に伝えておこう」


 よかった。たまの贅沢は良いけど、毎日これはね。美味し過ぎて他の物が食べられなくなっちゃうと困るのよ。将来の為に貯蓄したいから、毎日豪勢な食事は出来ないし。


「使用人は全員通いなのですか」

「離れで寝起きしている。あぁ、そうか。転移先を玄関内に設定してしまったから、離れがあるかわからないな」


 この家にはいないとはそういう意味か。敷地内に使用人専用の離れがあるとか豪邸過ぎない? きっと庭も無駄に広いんだろうなぁ。いや、知らない事は知らないままにしておこう。知り過ぎると誰かに話したくなるかもしれない。それは危険だ。


「立ち入った事を聞いて申し訳ありません」

「いや。聞きたい事があったら何でも聞いてくれ」


 ん? 惚れ薬の効果はすぐに出ないはずなのに、もう効果が出てきているの? それとも私事を話すのに抵抗がないだけ?

 長官の事を知らなさ過ぎて変化してもわからない気がしてきた。とりあえず通常の長官を知っておかないと観察出来ないかもしれない。


「それでは遠慮なく質問させて頂きます。ご両親は一緒に暮らされていないのですか?」

「両親は田舎に住んでいる。ここは母方の祖父の家で、祖父が亡くなった時に受け継いだ」


 え、この顔で田舎生まれとか想像出来ないんだけど。どこからどう見ても王都で生まれ育った貴族男性って感じなのに。


「ちなみに田舎はどこですか」

「ライヒだ。父はそこで領主をしている」


 全然田舎じゃない。いや、王都に比べたら田舎だけど、あそこは国防要の都市。ってか領主って! 家はどうした。長官の魔力なら実家が簡単に手放すとは思えない。


「最終的にはご実家を継がれるのですか」

「いや、弟が継ぐ。私が魔道具作り以外に興味がない事は家族全員知っていて、長男である私には誰も期待していないし、私も領主は御免だ」


 家族全員意見が一致しているならいいのかな。王家が長官を引っ張ってきて帰さないだけかもしれないし。魔伝鳩は安定供給してほしいよねぇ。それ以外にも長官にしか作れない魔道具があるし。


「前から思っていたが、本当にカルラは私に興味がないな。これくらいの事は魔導士なら普通知っている」

「そうなのですか?」

「そうだ。この家の元主はヴィンフリート・シュタルクと言うのだから」


 嘘。家名が違うとはいえ、どうして私は知らなかったんだ。ヴィンフリート・シュタルクは転移魔法円の産みの親として有名な魔導士。長官がその孫だったなんて。そりゃ家族も家を継がなくていいと言うわ。祖父の後を継ぐ方が余程名誉があるし、王家に目を付けられててもおかしくない。


「それであんなに小さい魔法石に転移先をみっつも描き込めるのですね」

「血筋は関係ないと思うが、祖父に似て器用ではあるな」

「器用と言う言葉で片付けていい範囲を超えていますよ」


 人間何かに秀でていれば、どこかに欠陥があるものだ。この人は容姿と家柄と魔導士としての素質を持っている。だが、大きな欠点があるからここまで独身だったはず。今度はそこを突っ込んでみよう。

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