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口外しないは結構難しい

「どうしたの、カルラ。難しい顔をして」

「ユリエ、久しぶり」


 ここ数日食堂で会わなかったけど、休みだったのかな。国家魔導士の休日って不定期なんだよねぇ。農民に休みはないから、あるだけましなのかもしれないけれど。


「数日で久しぶりって言われるほど、毎日会っていなかったと思うけど」


 あぁ。長官と毎日会っているせいで感覚が狂ったか。確かに時間が合えばというだけで、毎日一緒に昼食を取っているわけではない。


「ごめん、ちょっと考え事をしてた」

「それって男について?」

「えっ?」


 長官の事は漏れていないよね? 昨日、あれから魔法を教えて貰おうとしたけど妙に意識して上手く出来なかった。いつもなら手を握られても平気なのに、どうしても集中力が持たなかった。疲れているみたいですと逃げたけど。今日はどうしようかと悩んでいたのが顔に出ていたのかも。


「エリーアスに会ったのでしょう?」

「は? エリーアス?」

「え? エリーアス以外にも男がいたの?」

「い、いない。いるわけないよ」


 うわ、ユリエの視線が痛い。これは話を逸らさないと。長官に繋がらないようにエリーアスの方へ引き付けよう。そもそも昨日の今日で、ユリエからエリーアスの名前を聞くとは思わなかった。


「エリーアスは王都を離れるって聞いてたから会うとは思わなかった」

「あぁ、任務が終わって戻ってきたみたい」

「ふーん」


 正直エリーアスの肩書とか任務とか知らないんだよね。軍人という職業を好きになったわけではないし。それよりも何故ユリエがそんな事を知っているんだろう。


「無関心過ぎない?」

「別に偶然会っただけで、何も」


 なかったとは言えないな。長官が凍らせたし。エリーアスは無事だったんだろうか。ユリエがこの話を知ってるという事は、健康被害は出ていないと判断していいのかな。


「お一人様宣言したのは彼を一生思って生きていく的な話ではないの?」

「はぁ? 何で私が騙された男の為に一生を棒に振らなきゃいけないのよ」


 ユリエの思考回路が謎だ。あれだけ人に次の恋を薦めながら、実は私が一生エリーアスを愛し続けて独身を貫くと思っていたという事?


「あのね、カルラ。どうもその騙されたという話が違うみたいなのよ」


 今更そのような事を言われても困る。確かに顔は好みのままだったけど、恋心なんてとうに消え失せてしまった。そもそも騙されていたと教えてくれたのはユリエだ。


「食事を女に奢らせる男は最低だと言ったのはユリエでしょう?」

「それは最低だけど。その話ではなくて二股の方」

「三股、四股と増えるのは流石に聞きたくない」


 あの顔立ちならいくらでも女性を騙せるとは思うけど、いい思い出もあるからこれ以上悪い話は聞きたくない。昨日の態度でもげんなりしてるのに。


「逆。カルラだけだったの」

「万が一それが本当でも、恋人に奢らせていた男が最低なのには変わりがないと思うけど」


 自分の口から出てくる言葉が強い。以前の私ならここまでエリーアスを突き放したりはしなかった気がする。多分心が長官に傾いてるから、エリーアスを擁護する気にならないのだろう。


「カルラ、何があったの? 今までと態度が違う」

「そっくりそのまま返す。ユリエがエリーアスの肩を持つとは思わなかった」

「肩は持ってないよ。ただ行き違いがあるみたいだから訂正した方がいいと思って」

「もう私の中では終わった事だから興味ない。だけど昨日の話なのに情報を手に入れるのが早くない?」


 いくらユリエの交友関係が広いとはいえ、昨日の今日でどうやってその話を聞いたんだろう。ユリエは困ったような表情をしているし、エリーアスが何かしてないといいんだけど。


「今朝王宮の門前でエリーアスに捕まったの。カルラと話がしたいって」


 うわ、待ち伏せとか信じられない。だけど私も長官も転移魔法で王宮に飛んでくるから門前で待っていても無駄だ。一向に通らない私達のせいでユリエを巻き込んでしまったのなら申し訳ない。


「私はてっきり休みだと思ったのに、いつ出勤したのよ」


 う、痛い所を。エリーアスのせいで長官の方へ戻ってきてしまう。


「今日は転移魔法円を使ったの」


 王宮には固定の転移魔法円がいくつかあり、それらは王都の主要な場所に繋がっている。王宮魔導士ならば誰でも使えるが使用料がいる。私はそのお金を払うのが嫌で基本徒歩で出勤していた。王宮魔導士は個室勤務故に、出勤状況など誰も興味がないから、私の通勤方法が変わった事も誰も気付いていなかったはず。


「カルラが? 珍しいね」

「ちょっと歩く気力がなくて」


 王宮へ向かう転移魔法円の使用料は庶民の食事一回分だ。ケチでなければ使う。私だってたまには使う。年に数回、飲み過ぎた翌日とかに。


「やけ酒なら付き合ったのに」

「昨夜は飲んでないから。寝不足だっただけ」


 エリーアスに会ったくらいでやけ酒なんて飲むわけがない。長官の事を考えていて眠れなかっただけ。眠れていても魔法石があるから、徒歩での出勤はしないけれど。


「それより迷惑をかけてごめんね。エリーアスが門前で待っているなんて想定してなかったよ」


 私の交友関係が狭いから、エリーアスが私を探そうとする場合、真っ先に捕まるのはユリエだ。というかユリエ以外をあの男に紹介してもいない。本当に悪い事をした。


「それはいいけど、エリーアスがカルラと一緒にいた男は誰だと聞いてきたの。一体誰の事?」


 いーやー。こんな事になるならエリーアスの記憶をさっさと消しておくんだった。長官と一緒に高級焼菓子店に行ったなんてユリエにどう説明したらいいの。実験まで辿り着いたら私の国家魔導士の資格が剥奪される。最悪口封じされる。嫌だ、どうしよう。嘘を吐くなら事実を混ぜると本当に聞こえるらしいけど。


「生活魔法を教えてくれた人」

「あぁ、その人と付き合う事にしたのね」

「そういう訳ではないんだけど」


 うわ、誤魔化せたけどユリエの目が輝いてきちゃった。恋愛話が何よりも好物だって知ってるよ。だからこそ私がエリーアスとの事を話した時、私以上に怒ってくれて嬉しかった。それなのに引きずっていると思われていたのは納得いかないけど。ユリエは悲恋好きだから、勝手に私の事も悲恋にしてたのかな。


「カルラが新しい恋を選んだのならそれいでいいわ。エリーアスよりはいい男なのでしょう?」

「顔の好みの話をするならば、エリーアスがど真ん中よ」

「そういえば顔が好みではないと言っていたわね。でも性格はその人の方がいいのでしょう?」


 長官の顔を否定出来る程、私は美人じゃない。隣に並べば見劣りする事はわかる。それはエリーアスの隣でも同じ。だから貴族風の女性にあぁ言われて逃げた訳だし。


「エリーアスより悪い性格の男に引っかかるのは嫌だから独身でいいのよ」

「性格が悪いの? まさかまた奢らされているの?」

「あの人には一切貢いでないよ」


 むしろ色々貰ってばかり。惚れ薬効果を差し引いても貰い過ぎではないだろうかと不安になるほど。断ると悲しそうな顔をするし。本当にあの惚れ薬の効能が恐ろしい。


「顔は大切だけど経済力も大切だから。経済力があるなら好みから外れていても我慢出来ると思う」


 とんでもない言い分だ。私はそんな上から目線で男性を選べる立場にない。ましてや相手は長官。ユリエも知らないから好き勝手に言えるけれど、長官相手と知ったらどうなるのかな。


「次にエリーアスに会ったらカルラは新しい恋を見つけたと言っておくわ。だから今度の約束の日にじっくり話を聞かせてね」


 エリーアスに言って貰えるのはありがたいけれど、長官の話は口に出来ない。しかも約束の日は実験後だ。楽しく話せる気がしない。それでもこの場は取り繕っておくのが賢明か。


「わかった。だけど恋人ではないからね」

「その前の段階も楽しいの。早くその日にならないかしら」


 ユリエが本当に楽しそうにしている。期待されている以上、適当に話を創作しておくべきかも。一生口外しないって今更だけど難しい。

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