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白金のイヴは四大元素を従える  作者: 入鹿なつ
第3章 白金姫と黄金姫

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3 イヴとジン

 あるところに、ソルとルナという姉妹神がいました。勝気なソルに、穏やかなルナ。まったく正反対の二柱でしたが、大変仲のよい姉妹でした。

 ある時、父神が、好きな世界を作るようにと、姉妹神に星を一つ与えました。姉妹神にとっては初めての創世です。


 始めに、ソルが強き腕によって地と火を生み出し、赤き大地を作りました。その上へ、ルナが優しい吐息によって水と風を生み出し、青き海と空を作りました。すると、二柱の力が混ざり合う場所がいくつもできました。地が体、水が血、火が命、風が力となって、そこに生きものが生まれました。地を這うもの、空を飛ぶもの、海を泳ぐもの。どれ一つとして同じ姿のものはいません。

 姉妹神はそれら生きものを増やそうと考えました。しかし彼らにその力はありませんでした。生きものは、二柱の神の力がちょうどよく混ざりあうことで初めて新たに生まれます。しかし混沌からいでた生きもの達は力を調整することができず、なにがしかの偏りが生じてしまうものだったのです。


 そこで姉妹神は力を合わせて自分達の似姿を生み出し、イヴと名付けました。強いものではありませんが、イヴは二柱分の女神の力のすべてを均等に受け継いでいました。そのため、地水火風の四元素すべてに通じ、唯一、増える力を持つ生きものでした。

 イヴはあらゆるものと交わり、星の生きものに繁栄をもたらしました。種ごとの数を数え、偏りがないように管理もしました。捕食される弱い生きものはたくさん産み、寿命が長く強い生きものは少しだけ産むようにしました。こうして星の均衡は保たれるようになりました。

 しかしそれは、長くは続きませんでした。他の生きものと同じように、イヴにも老いが訪れたのです。イヴの力は次第に衰え、増える力も弱くなっていきました。


 姉妹神は悩みました。イヴを失えば、やがて星から生きものは消えてしまいます。また新たなイヴを生み出せばそのようにはならないのでしょうが、多くの命を産むイヴは短命な上、生み出すには大変な通力が必要でした。

 ところが、悩む姉妹神の前に一人の少女が現れました。イヴの一番目の娘です。彼女は二柱の前で、新たな命を産み落としました。彼女はイヴの力をそのまま受け継いでいたのです。イヴにはたくさんの子供がいましたが、一番目の娘だけが四元素に通じる力を持っていました。

 そうしてイヴは代を重ね、生きものにさらなる繁栄をもたらしました。


 無数に増えた生きもの達は、体内に記憶されたイヴの遺伝子により、やがて自ら種を増やすことを覚え始めました。しかしそうして生まれたもの達は、どれも不出来で未熟でした。やはり命が生まれるには、イヴの力が必要だったのです。

 星に未熟なもの達は増えていきました。そのほとんどが、理性を持たないもの、短命なもの、生まれる前に死に絶えるものばかりでした。彼らにより、星は荒れ始めました。


 ときのイヴは四元素に頼み、自らの血を嵐に乗せて降らせました。その血を浴びた未熟なものはあるべき姿を取り戻し、新たな完成された生命として生まれました。

 以降、イヴはたくさんの子を生む必要がなくなりました。代わりに季節ごとに血を降らせ、新たな生命が生まれる手助けをするようになりました。

 こうして星に、長きにわたる安定がもたらされたのです。




 * *




「このイヴの一番目の娘。そのすえにいるのが、ニーナ、君です」


 長い語りを、ルーペスはそう言って区切った。現実離れした昔語りに、ニーナはうまく言葉が出なかった。


「……それ、本当?」

「もちろん。この星の生き物はすべて、イヴの加護なしには成り立ちません」

「それが、あたしだと?」

「そうです」

「つまり、お母さんもそうだったってこと?」

「その通り。のみ込みが早いですね」

「ちょっと待ってちょうだい」


 ニーナは頭を抱えた。これは整理が必要そうだ。あまりに飛躍し過ぎて、うまく自分の中に浸透してこない。こんな話を、いきなり信じろと言う方がどうかしている。それでも、生命誕生のくだりまでは――正確には記憶していないが――星の聖典にもあったはずだ。だがその先のイヴの話はまるで聞いたことがない。ニーナはどうにか、話の穴を探そうとした。


「それならジンは? 今の話にジンは出て来なかったけど、ジンは始めからいたものなの?」

「ジンは始めからいたわけではありません」


 ルーペスは即座に否定した。


「この話には続きがあります。実は一度、イヴの血は絶えているのです」




 * *




 星の安定を確信した姉妹神は、創世の疲れを癒すために、一時の眠りにつきました。その間にも、星は刻々と変化を続けます。その時、星には人間が増え始めていました。

 人間はイヴの遺伝子を最も強く受け継いでいる種です。彼らは高い知能を持ち、独自の文明を確立して発展して行きました。すると彼らは、種のさらなる繁栄を求めて、他の種を脅かすようになったのです。


 そこでイヴは、人間を一所に集め、他種への侵攻をしないように管理を始めました。これが後に、女王制の国の成立へと繋がっていきます。

 女王として君臨しながらも、イヴの役割は変わりません。季節の変わり目には嵐に乗せて血を降らせ、生命の繁栄を促します。始めは人間達もそれを喜びのもとに受けていました。しかしそれも時代を経るごとに口伝の伝説とされ、いつしか忘れ去られていきました。


 そんな時代でのことです。国に女王制をよしとしない者が現れました。権力に目の眩んだ心ない人間によって、あろうことかイヴは暗殺されてしまったのです。

 イヴのいなくなった星には、未熟な生きものしか生まれなくなりました。増える力を失った生きものは次々に絶え、数を減らしていきました。百年足らずの間に、星からほとんどの生きものはいなくなりました。


 眠りから覚めた姉妹神は、動くもののいない星を見て愕然としました。すべてを知った二柱は眠りの間に蓄えた力で、再びイヴを生み出しました。そして今度は、彼女を守る存在も一緒に生みました。

 ジンの誕生です。ジンは四つある元素の内の一つをより濃く、より強く凝縮することで生まれます。そのため増えることはありませんが強い力を持ち、姉妹神の一方だけで生み出すことができます。しかし女神はイヴを生み出すのに消耗していたので、生まれたジンは少しばかり未熟でした。姉妹神は、弟神であるアストラを呼び寄せ、ジンを完成されたものへと育てるように頼みました。アストラのもとで育成、教育されたジンは、ようやく一人前の守護者としてイヴに届けられます。


 ジンに守られたイヴの働きにより、星に再び生きものは広がりました。そしてまた、人間も同じように繁栄を見せました。

 姉妹神は悲劇が繰り返されぬよう、イヴに幾重もの守りを付け、人間から隠すことにしました。


 直接的な害から守るジン。

 悪意ある者の目から隠す塔。

 塔を隠す城。

 城を隠す国と王。

 そして最後に、イヴの力に鍵をかけました。新たなイヴが役目を果たすに足る年齢に達した時、その血によって初めて開く鍵です。


 そうして、ようやく星は安息を得て、現在に至ります。

 イヴこそが、この星で最大の秘密。滅びと再生の鍵、そのものなのです。

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