ルール
「という事で、まずこの野球部のルールを決めておきたい」
諸角が「ルールですか?」と反復する。
「ああ、ルールだ。ただ、これは私が決めては意味がない。君たち自身で決めてほしい」
「具体的にいうとどのような部分のルールですか?」
速水が問いかけると相沢は少し考え込んだように顎に手を当てる。
「例えばだ、朝練は何時から何時までを練習とするのか、夕方の練習は何時間やるのか。あとは定期テストで何点以下は試合に出られない、とかまあ全部だ」
「それを僕たちが考えると?」
諸角は不安げに確認する。
「そうだ、極端に言うと私は何も決めない。もちろん、ルールを一切決めなくてもいい。全てをフリーにするのも有りだ。ただし、ルールを決める時には部員全員で集まり、全員で決めること。欠席者がいる会議での決定は認めない。あとは、もし途中でルールを追加したり、削除したい場合も同様だ。ああ、一つだけ提案したいのは練習の自由参加制、これだけは絶対ではないがルールに入れて欲しい」
部員たちは言葉を失う。一見、自分たちでルールを作るという事は自分たちの都合の良いようにできると考えがちだが実はこれが難しい。高校一年生の部員たちにとっては初めての経験である。これまでは学校にしろ、部活動にしろ、すでに敷かれていたルールの上を進んできたのだから。
「まあ、とりあえずルールが出来るまでは外での練習はお預けということでよろしく」
相沢はそう言うと、さっさと教室を出ていってしまった。