就任依頼
前々から構想を練っていた相沢の高校野球監督編をようやく書き始めることにしました。出来るだけ、現実の高校野球に沿ってリアリティのある作品にしたいと思っています。プロ野球編との同時進行になりますが気長に読んでいただけると有難いです。
あのプロ野球の世界で過ごした時間は、相沢にとって数年経った現在でも相変わらず煌めきを放っていた。
相沢がレッドスターズで仲間たちと共に過ごして得たものは、やはり野球が好きだという自分が抱いた思いだ。出来ることなら引退後も野球に関する仕事をしたいと望んでいた。
しかし、プロ以外で野球に携わる仕事に就くことは難しい。球団のスカウト、指導陣などとして雇われるのは、チームでそれなりの成績を残し続け、認められてこそであり、解説者になれる者もほんの一握りである。
そのためプロ野球界を後にした相沢は、フリーライターとして地元新聞社のコラムなどを書く仕事をする傍ら、相変わらず草野球チームで助っ人を引き受けていた。
そこに掛かってきた一本の電話。
相手は笹原と名乗った。
「突然申し訳ありません。笹原と申しますが、相沢さんの携帯でしょうか?」
相沢は知らない番号からの電話に戸惑ったが、「そうです」と短めに答えた。
「突然のお電話大変失礼しました。私、学校法人成真学園の理事長をしておるものです」
成真学園といえば、相沢の地元にある成真女子高校を運営している法人だったが、相沢には何ら繋がりのないところだった。
「はあ…」
相沢の気の無い返事から笹原は慌てて理由を説明し始める。
「そりゃ、驚くのも無理はないですよね、うちが運営しているのは女子短大と女子高ですから。ただ、その状況が少し変わるんです。出来れば直接会ってお話がしたいのですが」
唐突に電話をかけてきていきなり会いたいと言われても概要が分からなければどうにもならない。
「状況が変わるというのは?」
笹原もそこは隠さずに相沢に告げた。
「実はうちの高校が来年度から共学になるのです」
「はあ…、まあ状況は確かに変わりますね。それで私に電話かけてきた理由は何なのでしょうか?」
笹原は多少興奮気味だった。
「相沢さん、私は長年のレッドスターズのファンでした。あなたの姿をテレビで見ていて、心から感動したんです。同郷の選手が頑張っている姿をいつも応援していました」
「それは、ありがとうございます」
「そこで私は常々考えていました。あなたが引退して、私どもの高校が共学になったら必ずお願いしようと」
「お願いって何をです?」
笹原が威勢のいい声で相沢に伝える。
「野球部の監督をです。来年、共学化と同時に野球部がつくられる予定です。そこの初代監督になっていただきたい」
相沢は、そのあまりに唐突な依頼を受け、しばらく言葉を失っていた。