~Iron became iron oxide combines with oxygen~
めちゃくちゃ長くなってしまった。
切るところがなかったんです。反省はした。過去は振り返らないッ!
カオリを送ってから数日間、感情を抑えられずに泣いてしまった。
初めての友達。
「……カオリ。」
ありがとう、カオリ。僕に素晴らしい名前をつけてくれて。
さよならカオリ。僕の友達。
僕はきっと忘れない。それだけカオリは僕の中で強く残っているのだから。
さあ、僕もしっかりしなきゃいけない。だけどもう少しだけ、泣いていてもいいよね。
「にしても、思わぬ効果を生んだなぁ。」
ここは、神域。神々の数だけあるパーソナルスペースだ。基本神はここから管理をしたり地上を覗いたりしている。
ここにいるのは一柱の神。異世界に転生しシアンという名前をつけられた元少年を送った張本人。
ここで仕事6割趣味4割の気持ちで送った少年を毎日のように覗いていた。
「やっと動きがあったと思ったらまた一人になっちゃったよ。」
そもそも転生してすぐにどっか行くとは思わないじゃん。なんでわたしからのプレゼント見てないんだよ。
まさかあの森を徒歩で抜けようとするとは思わなかった。
なんとか魔力にかけた縛りに自分で気づいたからいいものの、心配だよ。これから人がいるところにいこうとしてるのにさぁ。
「いやぁ、最初に会ったのが同郷でよかったけど、なんで居んの異世界人。空間に穴空けんのそんなに簡単じゃなかったと思うんだけど。」
ちょっと調べてみよう、と言って手元のキーボードを叩き始めた。
カタカタカタ、カチカチッ、カタカタ、カチッ。
「あったあった。うわぁ、この国えぐい、何人死んだこれ。」
モニターに映し出されたのは1つの都市、だったもの。
今そこにあるのは、瓦礫の山と、黒い煤と染みだけ。
一市民たちが訓練された兵士に勝てる確率はどれ程だったのだろうか。結果は目に見えていたし、実際こうなっている。
「これは、タブーぎりぎりだね。まあ、まだ泳がせておこうか。そっちの方が面白い。」
神は享楽主義者だった。
いずれ、″シアン″が潰すだろうとも思うし、それはとても興味深いことになりそうだからね。
絶対にあの国はシアンにちょっかいをかける。その自信が神にはあった。
そうなったときがあの国の終わりだね。
あれ?その前に滅びそうだ、あの国じゃ耐えられなそうだからね。
「呪いは、まだ解けてないね。まだ時間がかかるか……。」
でもまあ、多少の不幸ならばはねのける力がシアンにはあるのだ。そこまで憂う必要もないだろう。
だから今日も神は趣味に走る。部下のストレスと引き換えに。
「シアン、いい名前だね。」
たくさん泣いて、なんとか心に整理をつけることができた。
よしっ、町に向かって頑張ろう。町には他にも楽しいことがあるはずだ。
―――おーい、聞こえるかい?
「……神様?」
神様の声が頭に響く。エコーがかかったようなフィルターを挟んだような声。
―――やっほーい。明るく楽しく仕事しない神様だよ。ちなみに頭で考えれば伝わるから無理しなくていいよ。
(き、聞こえますか?)
届いたかな?
―――聞こえるよ。じゃあ、用件から話すね。
(はい、神様。)
―――シアン、でいいんだよね?
(もちろんです、神様。友達がつけてくれたんですよ。)
―――それは良かった。あの娘がこの世界に呼ばれたのは君が転生したからなんだけどね。
(それはどういうことですか?)
―――まあ、今はそれは置いといて。君が転生した場所なんだけどね、ある森の中心付近なのはもう知ってると思うけど。
(はい、魔法で見ました。)
確かに巨大な森の中心だった。何年も歩いても外に出られないほどの規模に驚いたのも記憶に新しい。
―――それでね、その森なんだけど人類からしたら最も危険な場所のひとつなんだよね。
(確かに人は見ませんでしたね。)
―――だろう?人はまず近づかないんだよ。その森、魔力が濃いから魔物が他とは比べ物にならないくらい強いからさぁ。
(魔物?が強い、ですか……。)
―――人間からしたらだけどさ、人の町とかの近くじゃあんなに強いのは出ないからね。
この森は危険地帯だったのか。確かに食べ物もないし、生きづらいところだとは思ってたけどそこまでとは。
―――シアンが異世界に来たとき魔力の隠蔽してなかったでしょ?だから魔物が森から逃げ出したんだよほとんど全てね。
人間達は大慌て、勝てない相手のオンパレードだから絶望しかないもんね。追い詰められた人間は召喚したってわけ。
そうだったのか。カオリが召喚されたのは僕が転生したからだったってことか。
あっ!?
(あっ、そうだ神様!どのくらいまで隠蔽すればいいと思いますか?)
カオリに聞こうと思ってたけど聞き忘れたことだ。ちょうどいい、神様に聞いておこう。
―――シアンの好みでいいと思うけど、参考までにそっちに資料を送るよ。
そう言った後、光と共に一枚の紙が落ちてきた。
――世界の強さ(難度)平均~種族別編~――
1.人類種
人間 Level:10~40
獣人 Level:15~55
エルフ Level:30~70
魔人 Level:20~60
その他
2.魔化動物種(地域別)いわゆる魔獣
街道沿い Level:1~20
森 Level:10~40
迷宮 Level:1~100
危険地帯 Level:100~
3.魔力生命体
製作された時の魔力に依存。概ね0.7~0.9倍の強さ。
ゴーレム ホムンクルス スライム等
―――届いたかい?
(届きました。レベルは二桁くらいがちょうどいいですかね?)
―――それくらいが混乱が起きなくていい感じだと思うよ。
町に着いて早々、沢山の人に囲まれるなんてことになったら大変だ、怖すぎる。
(じゃあ、そのくらいで行きますよ。)
―――っじゃなくて、シアンのいる森は実は森じゃないんだよ。
(森じゃない、ですか?)
こんなに、もり森してるのに森じゃないとは一体。
―――そこは森じゃなくて、木なんだよ。
(はい?)
―――だから、森に見えるぐらい大きく育った木だっていってるのさ。
(あの広大な面積全てが一本の木の上!?林とか飛ばして木!どうしてそんなに大きくなっちゃたんですか。)
―――真面目に殺ってきたからじゃないかなぁ?
それでね、シアンにはこの木をどうにかしてほしいんだけど、
(いやぁ、どうやっても無理じゃないですかね。)
―――方法はもうこっちで考えたあるから大丈夫だよ。シアンの魔力を使うことになるけどいい?
(いいですよ、今まで減ったように感じたことないですし。)
―――ありがとーっ。じゃあ、簡単に説明するよ。まず、あの木の魔力を吸い上げる力を封じる。次にシアンが魔力を注ぐ。これで終わり。簡単でしょっ。
(そのくらいならできそうですね。)
―――封じるのはこっちでやっとくから、魔力はよろしく。じゃあねー。
ぶちっ、と電話が切れるように唐突だった。
神様から任された仕事だ。頑張っていこう!といっても魔力を注ぐだけの簡単な仕事なんだけどさ。
「……モンスター、……じゃ、……なかった。……転移。」
一度来た場所だ、転移も前より滑らかになっている。
後は木の力が封じられるのを待つだけだ。
スレバレリエロ大魔法帝国、この国は皇帝陛下以下皇族達の典型的な独裁国家であった。
建国した当初は独裁国家でも、善政をしき、国民からの信頼が厚い強国だったのだ。最初、小さな村から始まった国の団結力は凄まじいものがあったのだ。
しかし、帝国は先の魔物との戦いで疲弊していた。そんな中でも皇族たちは国民に重税を課し、兵を無意味に死なせ、そのくせ自分たちは城に籠ってやりたい放題。
国民の憎悪は限界に達しようとしていた。
その名の通り、帝国は魔法に絶対の自信があった。故に皇族は城にこもっていられたのだ。都市を覆う城壁だけでもかなりの技術が使われているが、城はそのさらに上を行き、帝国の技術の粋が余すことなく使われている。その防御力を語った文献も数多く残っており、堕ちた星をも止めたという伝説もあるほどだ。
だが、そんな魔法など森の魔物には通用しない。魔物たちは感情によって変化した魔力も大好物だ。言うなればスパイスをかけて味を変えたようなもの。
おやつ感覚で魔力を吸われていくのだ。
帝国民は、心のどこかに慢心を全員が持っていたのかもしれない。一度勇者と共に撃退した魔物を、森の方から来たのだからあれが森の魔物なのだと、無意識に思ってしまっていたのかもしれない。どれだけ強い魔物が、どれだけ沢山来ようとも我々の防壁は破られないとたかをくくっていたのだろうか。
しかし、森の魔物に容赦も遠慮もありはしない。もし、心の折れる音が聞こえたらこの日の帝都は凄まじい轟音が鳴り響いていたことだろう。
森から来た魔物はたったの一体だけ、狼の魔物だ。それは、最初に遠吠えを一つして攻め込んで来た。
その魔物には時間など必要ではなかった。もしかしたらいつもよりも魔力が薄く感じていたかもしれない。
ただ、その時防壁の魔法は何の役にも立たなかったというだけだ。
その魔物はたった一本の前足で城壁を破壊してのけた。まるで紙でも切り裂くかのように柔らかいタッチで、大きすぎる被害をもたらしていった。
そこからは地獄絵図だった。防衛するための兵士はもういない、皇帝が使い潰したためだ。まだ兵士が残っていれば民を誘導して避難させることも可能だっただろう。
しかし、現実には兵士はおらず、民は死んでいった。戦って死んだわけじゃないし、なにかを守って死んだわけでもない。ましてやその魔物から狙われることなど全くなく、ただの魔物が通る余波だけで民は死んでいったのである。
木枯らしに吹かれた葉っぱのように吹かれては飛び、飛んでは朽ちていった。
勇者がいれば少しは変わったのだろうか?いや、それはないだろう。
レベルの差は、そのまま経験の差である。勇者のレベルは高い者で70台、対してこの魔物は1000の大台に乗っかっている。文字通りレベルが桁違いなのだ。
レベルは10離れれば赤子と大人ほどの開きができる。実際、生まれたばかりは1なのだが、大人になる頃には10を越えることになる。
赤子が殴りかかってきても、それは可愛らしいものにしか見えないだろう。実力に差があり、それを知っているからこそ可愛らしいものに見えているのだ。
だが、この魔物の場合は違う。レベルの差が開きすぎているのだ。
例えば街を歩いていて空き缶を踏んだとする、誰だって気づくだろう。もしかしたらイラついて蹴飛ばすかもしれない。
だが、それが車ならどうだろう。少しは揺れがあるかもしれないがほとんど気づかないだろう。
人と、森の魔物の差というのはこれ以上の圧倒的な差があるのだ。
間もなく帝国は滅んだ。
次は我が身か、と周辺の国々が戦々恐々としていたが。驚異は突然に去っていった。
森から溢れ出た全ての魔物が、森へと帰還したのである。
そんな国々の中の一つ、ウォレリアス王国も混乱の最中にいた。行商人伝いに拡散される情報の早さは他を圧倒的に凌いでいる。そのため、帝国が滅んですぐにその情報が国民に広がることとなった。
神様が木の力を封じるのを感じる。さっそく取りかかろう。
有り余る魔力をこの巨大過ぎる木に吸わせていく。かなり吸わせているが、全く減る様子のない魔力に我ながら少しびっくりしていたりする。
だんだんと吸われる魔力の量が増えているようにも感じるが、魔力を吸う穴でも広がったのだろうか?
最初はストローぐらいの量で吸われていた魔力も、時間と共に太く速くなり、ついには木全体を多い尽くしそうなほどに大きくなっていた。
少しして吸い終えたのか、魔力を吸う勢いが衰えていく。それでも僕の魔力はそこまで減ったわけではなかった。
魔力を吸い終えた木が燐光を纏って煌めいている。きっとこの景色は今しか見られないのだ。
飽和した魔力が行き場をなくして外へと逃げたのだろう。魔力が減れば収まる現象だ。
だが、そんな予想をもこの森は越えていき、溢れた魔力は形をなしていった。
集まった燐光から現れたのは、新緑のような瑞々しい緑の髪の少女だった。
「ありがとうございます。素敵な魔力ですね。」
森と同じ気配を感じる少女だ。見た目はまだ若いというより幼いという表現が合いそうなほどなのだが、纏う気配は森そのもの。あまりに巨大で、強大だ。
「……あなたは、……森?」
「はい、森ですよ。マスター。」
やっぱり、目の前の少女、つまり森と魔力的な繋がりを感じる。マスターとはそういうことなのだろう。
「……僕が、……マスター?」
「はい、膨大な魔力を頂いたので勝手ながら契約させていただきました。……何か問題がありましたか?」
不安そうにしているのは魔力を貰えなくなるのを恐れて、かな?それにしても森に意思があったんだね。
「……大丈夫、……問題ない、……よ?」
言った瞬間から花が咲いたような笑顔で、キラキラと僕を見つめてくる。
「ありがとうございます、マスター。さっそく本契約しましょう!」
「……本、……契約?」
契約はしたんじゃなかったのかな。勝手に契約したって言っていた気がしたけど、別の契約?
「あっマスター、契約は初めてですか?」
「……うん。」
初めても何も異世界初心者なんだよね。魔法も最近使ったばっかりだし、人に会ったのも最近のことだ。
「であれば、契約について説明させていただきます!」
「……おー、……パチパチパチ。」
「……口で言わないでくださいよぉ。」
「「………」」
森の少女の肩に手を置き、うなずく。そういう流れだからっ。
「まあ、置いときますけど。ではっ!契約とは魔力によって、魔力的に作った異なる二者の繋がりの総称のこと、です。」
うん、と頷いて相槌を打つ。
魔力的な繋がり、今僕と少女の間にあるこの繋がりのことだと思うけど、とても細く切れそうなほどに見えるけど切れる様子はないね。
「では、この繋がりですが何のためにあるのか。それは、ズバリ魔力を送るため、ですっ!」
「……魔力?」
さっきみたいに、魔力を送るためってこと?一体それに何の意味があるんだろう。神様はこれを予測していた?
「そうです!魔力です。契約できるものは多くが自力で魔力の生産が出来ないものたちですから、契約者からの魔力だけで生きることになるわけです。」
しかし、それでは生きられないのではと思えてしまう。
「……契約する、…まで、……どうやって、……生きてる?」
「あー、それは二つに分かれますね。わたしみたいな他者の魔力を吸って生きるものとそもそも契約者が産み出したものになりますね。」
生物的に進化してきたものが前者で、目的を持って産み出されたのが後者と言うわけだ。魔力を手に入れる方法を進化の過程で身につけた者たちの方が自由度が高いのだろう。
「そしてですね、わたしたちのような魔力を吸い集めるものたちは、魔力に好みがあります。味、というほどではありませんが魔力には持ち主によって個性があるのです。つまり、わたしの好みにぴったりはまったマスターと契約させてもらいたいなぁ、と思った次第です。」
別に損がある訳でもなさそうであるが、一応聞いておいた方がいいだろう。
「……メリット、……デメリット?」
「メリットとデメリットですか?メリットは、色んなことに使える手が増えることですね。なんにでも使ってもらっていいですよ!デメリットは、まあ、四六時中魔力を吸われ続けることぐらいですよ。」
デメリットのことはあまり関係なくなった気がするが、メリットは大きい。だけどまだ聞きたいことはある。
「……何、……できる?」
「わたしですか?」
うん、と一つ頷く。
「わたしは、わたしの手足の先まで全て管理できます。例えば、」
そう言って何もない空間に向かって手を伸ばす少女。その向けた先に、むくむくと隆起した木の幹が迫っていく。
「こんな感じで操れます。あと、わたしの仲間、大体の植物も操れますよ。」
「……それだけ?」
「手厳しいですねマスター。大丈夫です、まだありますよ。」
今度は手招きするような動作をする。すると、森の中の魔物たちがここに向かって来るのを感じた。
「……魔物も?」
「はいっ!操れます。まあ、わたしの魔力を吸ってたものだけですけどね。」
「……十分、……森の外、……魔物、……呼び戻せる?」
「呼び戻せますよ。世界のどこにいても例外はないです。」
「……じゃあ、……戻して。」
「いいですけど、どうしてですか?」
森から溢れた魔物が世界を壊したりしたら、カオリの努力が無駄になるような気がして防げるなら防ぎたい。
別にこれを彼女に伝えるつもりはないけど。
「……いいから、……戻して。」
「むう、分かりました。」
ほいっ、と言って腕をタクトのように振り上げ、魔物に意思を届けていった。
彼女は、不満そうにしていたが僕の指示に従って魔物を森に戻してくれた。
「じゃあ、こんな感じでいいですかね?」
「……うん、……問題ない。」
うん、彼女は信用できそうだと思う。契約してても大丈夫だと信じることができそうだ。
「……本契約、……何?」
「それは、今の細い契約を強く太い契約にすることって思ってもらえればいいと思いますよ。」
「……どう、……変わる?」
「魔力をどちらからでも送れるようになるのと、契約者の位置が分かったり言葉を届けられるようになったりします。」
まあ、便利ではあるか。本契約しても大丈夫そうかな?手を顎に添えながら考えてみる。
うーん、最終確認しておきますかっ。
「……契約方法、……は?」
「簡単ですよ、魔力を注いで名前を付けるだけです。」
確かに簡単だ。名前かぁ、僕はセンスがないから考えたくないけど必要なことだよね。
そう思って、了承しようとしていたら。
「お願いしますよぉ、マスターの魔力が好きなんですよぉ。」
うわぁ、見た目はいい少女が目尻に涙を溜めながら懇願してくる。正直気持ち悪い、どうしようやめようかな契約するの。
「どうか、どうかこの通り。後生ですからぁ。」
挙げ句に土下座までし始める始末だ。流石に哀れみが強い。このままで街までついて、いや、憑いてこられたら目立って仕方がないし、困る。
「……いいよ、……契約、……する。」
「ホントですかっ!」
再びうん、と頷いて意思を伝える。驚くほど彼女の顔が綻んでいて、僕まで嬉しくなるような気がした。
「じゃあ、早く名前をつけてくださいっ!」
「……分かった、……でも、……ちょっと待って。」
「分かりました!待ってます。」
目をキラキラさせて僕を見つめてくる彼女の後ろに尻尾を幻視してしまったほど、期待に胸を踊らせて待っていた。
しかし、僕のネーミングセンスは壊滅的だ。しっかり考えてあげないと、長く使う名前になってしまったら可哀想だから。
うーん、緑、グリーン、エメラルド、お茶?森、苔、ネギ、ニラ、ホウレン草?駄目だ、思い付かない。
「……どんな名前、……いい?」
「どんな名前でも嬉しいですッ!」
何気に一番困る答えがこれなのだ、意見が全くない答えだ。結局自分で考えなくてはならなくなった。
センスのない頭をひねって名前を考える。
うーん……きめた!魔力を流し込みながら、決まった名前を呼ぶ。
「……ルクス、……ルクスどう。」
「ルクス、……いい名前ですっ!」
一気に詰まっていたものが取れるように魔力の繋がりが強固になっていく。
契約が確かなものになったのだと実感がわいてくる。
「……これから、……よろしくルクス。」
「はい!よろしくお願いします、マスターッ!」
「ところで、マスターの名前を聞いてもいいですか?」
あっ、
「あり得んッ!」
ガツンッ、と円卓に拳を叩きつけた男、彼は憤っていた。
彼は滅んだスレバレリエロ大魔法帝国からウォレリアス王国にとある任務で来ていた影の長。
突然の行動に周りの影達はざわつき、平静を失っていく。直前にあった報告があまりに衝撃的だったのも大きいのだろう。
彼らは、国のために国外の情報を届ける誇り高き影達。
そんな彼らは皮肉にもその仕事中に知ることになってしまった。そして、彼らは生き残ってしまったのだ、国外にいたからこそ生き残ってしまったのだ。
「ふざけるなぁッ!なぜだ!なぜ、守れなかったぁッ!?」
握りしめた拳から血が滴る。
一度広かった混乱は中々収まることはない。むしろ広がる一方だ。
叫ぶのは、仲間への怒号。やりきれない後悔の思い。
彼らにもう帰る場所はないのだ。
「ゼロ、それぐらいで。」
「どうしろと言うんだッ!ワン。」
ゼロと呼ばれた男、この影達の長はワンと呼ばれた男に叫ぶ。
「ゼロ、お前がそうでは組織が纏まらん。落ち着け。」
「しかし、ワン……。分かった。とりあえずここは危険だ、撤収するぞ。」
「ああ、お前らッ!いつまでもボサっとするなッ!」
その声に触発されて冷静さを取り戻した影達が、それぞれの準備に取りかかっていく。
しかし、それをするには彼らは遅すぎた。
「アジトを発見、突入します。」
ドタドタとぶしつけに飛び込んできたのは、ウォレリアス王国の騎士達。
奇襲された影達はなすすべもなく捕縛されていく。
「貴様らぁッ!!」
やはり最後に残ったのは長であるゼロ。その地位に選ばれた実力は並みではないが、準備の整った騎士と奇襲された影、その結果は火を見るより明らかだった。
こうして、最後に生き残った帝国の者も人知れず終わりを迎えた。
ルクスのステータス
Name:ルクス
Type:木霊種 神霊
Level:????
Skill:????・・・
Title:????・・・