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凍心の竜  作者: Fin
3/73

N/A[K]Melt

挿絵(By みてみん)

―――お前は、




―――お前は、何の為に存在している。













「……んぅ?」


 心地いい目覚めとは言い難い、硬質な何かの上。前世では路上が当たり前で、運がよければ床で眠れる日があったくらいだった。その経験もあり、硬いものの上で眠るのには慣れたと思っていたが、案外そうでもないらしい。


「……あ、………あぁ。…異世界?」


 自然が視界いっぱいに溢れているが、元の世界にもこんな景色を見て、興奮できる場所はあったかもしれない。僕にはそれらを見に行くことは出来なかった。

 360度何処を見ても木々に囲まれ、水面が凪いで鏡のようになっている泉を望む。そしてその大自然を求めて森の動物達が集まり、その動物達の鳴き声の大合唱が……


 しない?


 何故か動物の声がしない。あり得ないだろう、これほど自然に溢れる場所、人間の手が入ってない場所で動物の声が聞こえないなんてこと。


 獣の鳴き声はおろか鳥たちの声すら聞こえない。するのは、風に木々の枝葉がさざめく音と、泉に注ぎ込む小川のせせらぎだけ。


「……何も、……いない?」


 動物達がいないということは何か、生物にとって害のあるものがこの森にあるのかもしれない。


 動物のいるところまで移動した方がいいのかな?


………てくてく、………てくてく、………てくてく、………てくてく、………てくてく、………てくてく、…………てくてく、……………てくてく、………………てくてく…………………てくてくてくてく。


「……はぁ、……何も、…いない。」


 動物どころか森の景色に変化が見られない、同じところを回ってしまっているのだろうか。だとしたらまずいだろう、有害なものが出ている可能性がある場所をぐるぐると長時間回っているのだ。

 少ししか出ていなくても長く吸えば何か異常が出るかもしれない。


「……しるし、…つける、………か。」


 近くに落ちていた石を拾い、木の幹にしるしを付けながら歩くことにする。


 とりあえず一番近くの木に、ガリガリ、ザクッ。バリバリバリッ!軽く削るつもりが、まさかの半分まで消滅した。握ってた石もない。

 ゆっくりと支えを失った木が倒れていくのを、呆然と見送った。


 おっと!?何故に?

 分からないけど、とりあえず力加減には気を付けよう。


 …てくてく、ガリガリガリ……てくてく、ガリガリガリ………てくてく、ガリガリガリ…………てくてく、ガリガリガリ……………てくてく、ガリガリガリ………………てくてく、ガリガリガリ…………………てくてく、ガリガリガリ


「……森、………広い。……出られない?」


 森が広すぎる。太陽の登った回数も記録を伸ばしている。不思議と空腹はなく、眠くもならないが。いい加減、景色に変化が欲しいところだ。

 よるの森でも見渡せたので、一日中歩いていたが、森が途切れることがないのだ。気も滅入ろうというものだ。


 これだけ歩いても森が途切れないことにも驚きだが、そんな距離を歩いても疲れを感じない身体に驚愕していた。

 本当に異世界なのだと、感慨に耽る。


「はぁ、………歩く。……まだ、…ある。」


 身体の疲れと精神の疲れは違うようで、さっきからため息が増えていっている。

 変化のない視界、現れない動物達、力加減のことも加わって、歩き続けても途切れない森に疲れが蓄積されていく。


 しかし、まだまだ歩く、いつか森が途切れると信じて。











―――そこは世界最悪の災害地帯。その森の規模は今の覇権を握る大国達、その全ての領地を合わせても足りないほどに広大。

 そこから溢れる魔物達によって度々森の近くの街が滅ぶ。そんな森。


 その森の最深部に極大の魔力、強さを持った何かが現れた。知恵なきものは魔力に惹かれ、知恵ありしものは恐怖し逃走した。

 逃げてきたもの達は、森の中央を失い狭まった森で、縄張り争いを繰り広げた。敗北したもの達は当然、森に居場所などなく、森から溢れだしていった。

 それからは、人間と魔物のいたちごっこの滅ぼし合いだった。生存圏が欲しい魔物達と領地を落とされまいとする人間の戦いだ。


 戦いが始まり3年、拮抗した戦況を一手で変えたのは、異世界から召喚されたもの達四人だった。

 そのもの達は、この世界の人間とは根本的な強さが違っていた。その圧倒的な魔力とその他技能(スキル)で、魔物を次々屠っていった。

 結果人類は勝利し、領地を広げた。

 それを成した異世界のもの達は勇者と呼ばれ持て囃されるようになった。


 しかし、いつまでも勝利の気分に浸ってはいられなかった。勇者の一人が帰りたいとこぼしたのだ。

 勇者を召喚した国はこの異世界人達を元の世界に帰す気など全くなかった。いや、元の世界へと帰ることなど出来はしないのだ。その手段はすでに失われているのだから。

 必死になってその事実を隠していた国だったが、いつまでも隠しきれることなどありはしない。

 事実を知った四人は、それぞれの意見に分かれ、分裂した。


 ある一人は、そのまま国へ帰依した。


 ある一人は、こんな国にいられるか、と彷徨の旅に出た。


 ある一人は、運命を呪って自殺を図った。




 そしてある一人は、まだ希望はあると、人類の未踏領域へと……


 人類は知らない、この森の本当の恐ろしさを。人類には知ることができない、踏み込んだものが全て森に飲み込まれているから―――













「……何もない、…し、………力の確認、……しようか?」


 そういって自分の両手を見る。前世の手よりも細くか弱い、容易く手折れそうな白い手だ。


「……細い、………弱そう。」


 手の確認はもうやめる、前世より弱そうで嫌になるから。


 次は何を確認しようか。髪の毛が長くなったかなぁ。転生直後より長くなった気がする。今では視界にチラチラと青みがかった白色の髪が入る程だ。前世ではボサボサ頭が常だったが、今では指通りがいいさらさらの髪になっている。ずっと触ってられる感触だ。


 一度考え出すともう、自分の見た目が気になって仕方ない。近くの泉へ行き、その鏡のような水面に自身を映す。


「……これが、………僕?」


 現れたのは明らかに前世よりも弱そうな、細い身体。

 かなり整った顔立ち。柔らかそうな白い肌にちょこんと各パーツが絶妙な位置に配置されている。

 少し眠たげな目をしているが、それすらも美少女っぷりを後押しする程度のものだ。


 最も特徴的な部分と言えば、髪と同じ色の瞳の中にある、縦に割れた瞳孔だろうか。これ猫とかトカゲの瞳だ。


「……トカゲ?……人間じゃ………ない、…こういうこと?」


 そういえば、あの転生前の空間にいたときよりうまくしゃべれなくなっている気がする。

 まあ、元に戻っただけだ。あの場所でしゃべれ過ぎただけだった気もするし。


「……なめられる、…見た目、……注文、………違う。」


 がっくし、と項垂れる美少女。なまじ見た目がいいからくずおれたような体制でも絵になっている。

 見た目が大事なのはどこの世界でも同じだろう。嘗められるような見た目では再び虐めが起こるかもしれない。


「……もう、…痛いの、………嫌だ。」


 見た目の確認はやめよう。嫌なことを考えるだけだ。力の確認をしよう、魔力?の使い方も分からないし、本気がどのくらいになるか知っておいた方がいいだろうから。


「……まずは、……元の世界基準、…で、………調べよう。」


 力の確認をするにしても、基準がなければ比べられない。この世界特有の測定法や、単位がある可能性は高いが、取りあえずならば普通のメートル法や、キログラム法でいいだろう。


「……ん?…1メートル、………分からないけど、……どうしたらいい?」


 まあ、考えてもしょうがないから適当に、目測でやろう。仮に二歩を1としようかな。


「…よし、……やろう。」


 気合いを入れるため頬を叩く。

 さて、最初は速度だ。今いる場所に印を付け、曲がらないように気を付けながら百歩歩く。これで仮の単位50が測れる。


「……位置に、……ついてっと、……どーん。」


 自分で掛け声をかけて走り出した。と思ったときには、ゴールにいた。


 なにいってるか分かんない?

 いや、僕も分からないけど気付いたらゴールにいたのが、ありのまま今起こったことだ。


 後ろを振り返ると、僕が踏み込んだ場所が浅くクレーターのようになっている。

 音速を越えたのか、回りの木々も僕の通り道を中心になぎ倒されている。


 いくらなんでもおかしい。元の世界でも音速を越えて空気の壁を突き抜けるような乗り物はあったが、それだって抵抗とかを緻密に計算してその上で大きい推進力で無理やり飛ばすような代物だ。

 今、僕は息すら上がっていない。本気で走らないように無意識にセーブがかかったのか、何か理由があるかは分からないけど、まだまだ速度は上げられそうだ。


「……跳躍は、……危険、………やめる。」


 あー、今の音で誰か気づかないかな。まあ、無意識にも力の制御ができるくらいにしてからの方がいいかな?


―――ざわざわ、と辺りの草木が揺れる。


 誰かいる?風の揺れかたじゃない気がする。


―――グギャ、ガギィギャガ。(肉、若い柔い。)


 え?

 声が重なって聞こえる。一つはおよそ人間の声とはかけ離れた化け物のような声、もう一つは喉を潰されたような聞き取りづらい声。

 喉を潰される痛みは知っている。痛みで叫び声をあげようとしても出るのはカヒュー、といった感じの空気が抜ける音と血ばかりだった。


 やがて草むらを掻き分けるように出てきたのは、緑色の肌をした小人だった。

 小人は、ぎらついた目でこちらを見ながら手に持った己の武器の握りを確かめていた。


 ゴブリン?


 自分以外の生き物に会えて少し興奮しているのを感じる。

 それにしても知ってるゴブリンとだいぶ違う気がする。前世の創作の中では大体群れて生活している最弱のモンスターみたいな扱いだった気がするんだけど……


―――ゴギギャッギャ!?グギャァ。(女!?ツイてる。)


 しかし、どうみてもこのゴブリンは屈強だ。纏う筋肉は鎧のようにみっちりと詰まっていて、だらしない部分は一切ない。

 群れないのは、おそらく群れる必要がないからだろう。


 大丈夫なはずだ、神様もこの世界に僕を傷つけられる存在はいないと言っていた。

 それにさっき確認もした。全力でやれば大丈夫だろう。


「……よしっ。」


 僕はそういって後ろを向き。


―――ギャッ?(あ?)




 全力で走り出した。


「……逃げるが、……勝ち。」













―――グギャ?ゴグギャグル。(え?いやマジで。)

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