聖槍の勇者は、出会いに感謝する
ノリとツッコミを込めて書きました。
指摘あればよろしくお願いします。
感想お待ちしています
あたしの立場ってばちょっとややこしいんだよね。
例えばあるところにある夫婦がいて、そしてその夫婦には子供がいて、夫婦が破局し母子家庭になり、そして子供の一人が勇者に選ばれた。
そして破局した夫婦の旦那側は一夜のアバンチュールみたいなものを起こし一人の娘をこさえた。
ハイここ、コレあたし。
つまりあたしは勇者の腹違いの妹な訳なんですが
まあそんなの誰も信じないし平穏な生活を送るに当たってそれは余計な異物でしかないのだが。
あたしのおかーさんはネグレクトして愛人と高飛びして、あたしはおとーさんにあえなく引き取られた。ん?
あえなく?
間も無く?
まあ、そんなに間を置かずに、っていう意味で。
まあ、すくすくあたしが胸以外の部位が育っている間にも、聖剣に選ばれし兄さんは魔王を討伐……しませんでした。それどころか友達になっちゃったんだぜ。
まあ、魔王さん良い人だしそこまでは良い。
それを王様に伝えねー訳だから勇者破れる! なんて誤解されたわけで。
恐怖に見舞われた国民を落ち着ける意味でも第二陣投入されるわけよ。
聖剣に選ばれた勇者がダメなら、聖槍に選ばれた勇者を行かせればイイじゃない? みたいな
ハイここ、コレあたし。
つまりあたしは聖槍に選ばれた勇者なわけなんですが。
そんでまあお兄ちゃんの仇とったラァ!
って意気込んで行けばお兄ちゃんめっちゃ元気じゃん?
え、どういうこと、どういうこと???
って、ちょいヤンデレっぽく聞いたら説明された。
おま、社会人のくせに何独断専行してんのーまず連絡でしょー報告でしょー相談でしょーバカなのー?w
って中指立ててプギャーしてみたら魔王さんがキレて喧嘩になった。
負けた。
だってちょーつえーんだもんよーもーやだーって思いつつ覚えてやがれ!
って退散して修行の旅をして、そしてもっかいリヴェエエエンジしにきたんだが。
目の前で、三年前あたしをコテンパンにした魔王がコテンパンにされた状態で頭を踏みつけられている。なんか踏みつけてる人が今日から余が新たなる魔王だーイェーイ! なんて言ってるよオイ。
ぇ、世代交代? 下克上? 歴史的瞬間?
「に、逃げろサキ! こいつはヤバイ………!」
おっと?
聖剣の勇者様もなんかボロ雑巾になってるってかあたしのお兄ちゃんになんばしよっと??
「………ほう、貴様が聖槍に選ばれし勇者か? 腕前を見せてもらおう」
ワカメみたいな髪の男………新魔王? が、話しかけてきた。
うわーあの頭ちゃんと洗ってんのかよってか全体的にボロッちぃ服だし………ばっちぃ。
女子力最底辺のあたしだって一応枝毛を気にしてトリートメントしてんのに、なんだこの魔王、美意識が足りねー。
こんな魔王やだ。
「………そうだよ。錫白はあたしを選んでくれた」
槍を覆っていた布を取り払う。新魔王が迫ってくる。
「逃げろ! サキ………! そいつは聖属性を喰らう!」
大丈夫だよ、お兄ちゃん。
新魔王の掌底を、弾き飛ばした。
しかし聖槍ではなく、妖槍で。
「なっ、それは……!」
驚愕に歪む新魔王の顔。あ、スキンケアしてねーからニキビ出来てら。
聖槍に選ばれる前。あたしは妖槍に魅入られていた。
十三歳の頃、あたしはそれなりに散々な目にあっていた。
おとーさんは死に親友に裏切られ闇市に売り払われ、臭くてきたねー檻の中にぶち込まれていた。絶望していた。
そんなとき向かいに槍が立てかけられているのが見えた。
《汝、力を望むか》
それなりにありふれた言葉にあたしは遮二無二頷いた。
あたしは妖槍を手に組織を壊滅させ、関連した犯罪組織を三年で根絶やしにした。
その頃のあたしのあだ名は【荒ぶる絶壁】なにが絶壁かは推して知るべし。
それでまあ冒険者として名が売れてそれなりに有名になった頃に
聖槍に出会った。
粗方の犯罪組織を潰し暇になり、あたしは暇を潰すために適当な仕事を受けていた。
内容は、公園に響く謎の歌声の正体を突き止めること。
昔から公園で夜な夜な美しい歌声が響いてくるのだが、姿がどこにも見当たらない。あまりにも気になって夜も寝られない、と言われてそれ幽霊じゃない?
と思いそれなら妖槍で貫けるなと引き受けた。今から思えば正体を見破るんであって殺しちゃダメなんだよ、とツッコミを入れたい。
今でも思い出せる。
夜に赴いた公園。風に揺れる木々。水銀灯に照らされた小道。
響き渡る、ただひたすらに清らかな歌声。
導かれてたどり着いたのは、その公園に存在しないはずの噴水。
濡れるのも構わずじゃぶじゃぶと中に入り、その中心部に、触れた。
砕けた噴水。吹き荒れる水が虹を作って。
目の前に、楚々とした聖槍がいて。
《我は…………誰だ?》
そう問うた君に、あたしはこう答えた。
「君は………錫白」
君は、潔白にして乗り越える人。
あたしの背に、いつの間にか妖槍は消えていた。
「な、ぜ、妖槍が…………聖槍を捨てたのか………!?」
飛びのいて、新魔王が距離を取った。土手っ腹には風穴。
「まーさか」
言葉と共に聖槍を召喚する。
打倒魔王の修行の最中、あたしは妖槍に再び合間見えた。あたしがかつて潰した犯罪組織の長が握っていた。それを見たあたしはこの誰にでも股を開く阿婆擦れが、と妖槍を罵った。
次の瞬間長は妖槍に乗っ取られた。
厳しくなる戦いの最中、あたしと錫白は、見た。
妖槍の想いを。
主に名をつけられぬ悲哀を。
主に力しか望まれない寂寥を。
長に勝った後。あたしと聖槍は二人であなたの名前を考えた。
あなたは、美しく淑やかな人。
「桜花、それがこの子の名前」
そう魔王に告げてあたしはトドメの一撃を放つ。
「…………ねぇ、聞いてる? だからあんたが魔王になるとか笑えないんだけどw、ねえ?」
「あ、の、…………サキ殿、そのくらいに、」
「だまらっしゃい。聖剣の勇者とのBLカップリング本出版されたくなくば大人しくしてろ」
あたしはコテンパンにした新魔王、いや、元魔王の頭をグリグリ踏んづけながらいかに美意識が足りないかを説教していた。罵るともいう。元に戻った魔王がティーセット持ってなんか言ってるけど知るかボケ。
「見てみ? この魔王を。このキューティクルを、美肌を、自分を討伐に来た聖槍の勇者をお茶と菓子でもてなそうとする女子力の高さと危機感の無さを!!」
「ぐっほ!?」
「ちょ、サキ!?」
「聖剣の勇者は黙ってなさいよそもそも誰のせいだと思ってるの!? 聖剣の勇者が連絡怠るせいであたし魔王討伐しに行かなきゃならなくなるわボコられるわしたんでしょ、ねぇ!? しかも正しいこと言ってんのにボコられるってどういうこと???」
「あのときはまだ、デインに俺が勇者だって言ってなくて………」
「それで注意してるところ見られてボコられるって理不尽! あんたが死んだと思って絶望に叩き込まれたやつらに謝れ! 特にあんたの母親にだ!!」
「………………っ、」
「あんたなんか……あんたなんか魔王とのBLカップリング本出版してやるんだから!!!」
「「「やめてぇ!!」」」
何故か三重奏。だからお前は魔王じゃな、いや待て
「3Pか、いいかも。もちろん総受けは聖剣の勇者!」
「「「やめてぇ!!」」」
「っていうかさー、聖属性効かないってこいつ何者? 食っちゃったら人間でも普通ハラ壊すでしょ」
ニキビを潰さないよう避けつつ顔を踏んづけるあたし超ヤサシー。魔王は困惑しつつお茶の準備してる。
「それが...... わからない。突然現れて...... 」
「なんという未確認生命体。売り払えば高く売れるわい。ぐへへ」
「このひとホントに勇者なの!?」
悲鳴を上げる魔王。世の中銭が無いと渡るのが難しいんだぜ。
「ご不満ならあんたのイケメンフェイスに聖槍が炸裂してるガールになったって良いんだぜ?」
「い、イケメンだなんて、そんな、サキ殿...... 」
「デイン、そこは照れるところじゃない」
照れる魔王に冷静に突っ込みを入れる勇者。カオス。
「が、がーる……女!?」
こちらを凝視する元魔王。ガン見している先はあたしの二つ名の由来になった体の部位だ。
「おっとそこは指摘しちゃダメなんだぜ? あたしは良いけど他の女の子にやっちゃダメだ。なー?」
あたしは足をどけてしゃがみこみ、元魔王の頬を撫でて言う。
「わ、わかった……」
「よしよし」
素直だな……ん?
「おまえ天使なんじゃね?」
「「えぇ?!」」
「触った感じそうだわ。でも、堕天はしてない。だから聖属性を食べても大丈夫だったわけだ。魔王を殺そうとしたのは神様の意志か?」
神様と聞いて魔王が真っ青になる。神様に目をつけられるのはツラいよな。それを抱きしめる勇者。よし、勇者は攻めで。
髪をかき分け目を見る。肌はボロボロで隈ができてら。目もひどい充血。けど、澄んだ青い瞳。
「ち、違う……」
元魔王、いや迷子天使が首を振る。嘘はついてない。ふくざつなじじょーがありそうな。
「面倒だなー」
聖槍錫白と妖槍桜花を呼び出す。
「抵抗するなよー、さもなくば去勢する」
「「「っきょ!!!」」」
魔王勇者天使が股間を押さえ前屈みになる。なんという貴重映像。すかさず端末で写真をパチリ。
「よっしゃ、ツイートツイート」
「「「やめてぇ!!」」」
「っはー、なるほどね? あんたは濡れ衣着せられて天界を追い出された天使と。いやいくら自暴自棄になったって世界征服はアカンやろ。どうしようか...... 」
《去勢する?》
「錫白ちゃーんソレはえっぐい」
《全裸待機…》
「桜花は意味わかってるのかなー?」
記憶を覗かれた迷子もとい冤罪天使が「弄ばれた...... 」と自分を抱き締めるようにしながら床に女の子座りしてる。あたしと魔王と聖剣の勇者はテーブルで優雅にお茶してる。そして魔王と聖剣の勇者は錫白の言葉に両手できゅっとした。何をきゅっとしたかは推して知るべし。
「おい魔王陛下と聖剣の勇者。なんかアイデアは無いかしら?」
「そう、ですね。冤罪なのですし、それを晴らしてあげて天界へ戻してあげるのは...... 」
「魔王陛下甘くない?」
「幸い襲われたのは私とタキさんだけなので」
「おっと天使単独攻めの3P?」
「やめてください」
「聖剣の勇者は?」
「同意見」
「そ」
さて問題は、どうやって天界へ連れてくかだが。
「錫白ちゃーん、天界になんかツテとか無ーい?」
《ある》
「まじでー!? すごいな!」
《俺もある》
《オレもオレも!》
「エクスカリバーには聞いてない! あと隣の黒いのはなんだ!」
《ひどい...... 》
《オレの名前はダインスレイブ!》
「聖剣がしゃべるところはじめて見た...... 」
「私は魔剣の名前さえ知らなかった...... 」
なんか落ち込んでる勇者と魔王。知らんがな。あ、桜花拗ねないで。かわいい。
「ま、待って!」
冤罪天使が(未だに床に女の子座り)声を上げた。
「か、帰りたくない......!」
「うわぁ...... どうしよう、汚ったねぇ野郎に言われてもときめかねぇ」
「そ、そんな、」
「何で帰りたくないんだ?」
聖剣の勇者が問いかけた。
「だ、だって、誰も信じてくれなかった...... 」
「愛想がつきたと?」
こく、と頷く冤罪天使。まあ、無理からぬかな。
「うん...... あれだな。取り敢えず魔王をボッコボコにして国に帰って、」
「何故に!?」
魔王が目を剥く。何故にって
「三年前のケジメがまだじゃボケ」
「うっ」
「そしたら王様にあちらは和平を希望してますよーって言って和平条約結ばして、そしたら...... 」
椅子から立ち上がり、冤罪天使の方へと歩みよりしゃがみこんで目を会わせる。
「あたしと旅に出よう」
「............ え?」
「心の痛手は旅で癒そう。あんたが幸せになれそうなところを探してあげる」
「っなんで、」
何でと言われても。
「だって、あんなに頑張り屋さんなところ見ちゃったらねぇ」
記憶を覗いたとき。
彼が生まれ、どのように育ち、生きてきたのか。
見えてしまったから。
「ほっておけない」
髪をかき分け、きれいな空色の瞳を見る。
「女子力磨いて待ってな? ハニー」
それから
魔王をボッコボコにして写メ撮ってツイートして、聖剣の勇者もついでにボッコボコにして写メ撮ってツイートして、
そのあと国王へ聖剣の勇者と魔王について報告して和平条約を結ばせ聖剣の勇者と魔王のカップリング本を出版しベストセラーになり、
それから
「ヘイ魔王! 元気?」
「あなたがとんでもない本出版したお陰で胃は絶不調ですよ!」
「そっかー、聖剣の勇者は?」
「お前が国王にデインと俺が恋仲になったとか嘘つくから人間の国に居づらくなっただろうが!!」
「そっかそっかー、」
とか言いつつ本当に恋仲になってんだろお前さんら。ダインスレイブとエクスカリバーから証言はあるんだぜ。
「で、冤罪天使は?」
「え、えんざい? あぁ、彼なら...... 」
その時、ノックと共に中性的な声が聞こえた。
『失礼します』
入ってきたのはティーセットを持ったメイドだった。
蜂蜜と檸檬を混ぜて飴細工にしたような艶やかな髪は首の後ろで結ばれて背中にさらりと流れる。処女雪のように白い肌、頬はほんのり淡く色づいて。桜の蕾のような、愛らしい唇。そしてどこまでも澄んだ青い瞳はこちらが吸い込まれそう。
「あ、女子力スカウターが壊れた。けいそくふのう!」
「何を言ってるんですか」
「やべぇ、魔王以上の女子力の持ち主、だと?!」
「何を言ってるんですか」
ヤバい。かわいい、かわいい、かわいい!!!
「ヘイそこのおッ嬢さーぁん! あたしにテイクアウトされない?!」
「直球ッ!?」
「喜んで」
「即答ッ?!」
「よっしゃー善は急、げ…………ん? ………ぁ、駄目だ」
「え?」
「あたし先約あるんだった。ごめんね」
「…………どんな、方なのですが? 先約の方は」
「んー? そいつ天使のくせにスッゲー小汚なくて~グレて一人称を余、にするし世界征服しようとするし?」
「……………」
「でも一途で可愛いやつでね~。良いやつなんだよ、本当は」
天使は至極正直なカラダをしている。
なんて言うと誤解を招きそうだが。
同胞に裏切られ神様から信じてもらえずその羽をもぎ取られても尚、堕天しなかった、彼は
「……………」
「これからそいつが幸せになれる場所を探しに行くんだ。だからそれまで待っててねー!」
「…………………もう、しあわせです」
「へ?」
「あなたのとなりにいたい。あなたと共にいるだけで、幸せです」
―――――へっ?
と、言うわけで天使と魔王と勇者の三つ巴3Pは世に出る前に消えた。
「つーかさ、冤罪晴らさなくて良いの?」
「いえ、もう晴れてます」
「え?」
「魔王城にいた際に、使者が来ました。塩投げて追い払いました」
「塩」
「次は賞味期限の切れた中濃ソースぶっかけてやります」
「わあ」
ふふふ堕天したと勘違いされてしまえと笑う君が、可愛い。
「イカスミの方がよくね?」
「確かに」
これから、聖槍に選ばれ妖槍に魅入られた勇者と美しすぎるメイドの物語が幕を上げる。
かもしれない。評判によっては連載考えます。
聖槍の勇者とメイド特性イカスミカラーボール。
¥3800
一度つくと1年は取れない。そして臭い。別売りの専用塗料落としがあるが販売店は全て国の目が行き届いておりいつどこでなぜカラーボールをつけてしまったのかの記録と現住所と指紋の登録をしなければならない。
妖槍の冒険者と天使の慈悲
¥19800
イカスミカラーボールの塗料を落とす。上記の通り別売。内容物不明。
多くの天使が買いに来た為、長年謎だった天使の生態系の一部が明らかに