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私は鬼の子

作者: PIERROT


鬼は元来、憎み嫌われる

鬼が鬼たる所以とは

なぜ人が鬼を恐れ殺すのか

愛を貫いた少女の物語

「私は、鬼の子なんだ」

「へーそうかい、ちょっとそこにあるプリント取ってもらえる?」

「ねぇ、スルーしないでよ田中くん」

「君こそ僕のお願いスルーしないでよ、ゆりちゃん」

「私の名前はゆりじゃなくて、くるみ!はいっ!」

「どうも。じゃあ言わせてもらうけど、僕は田中じゃなくて高瀬。で、君が鬼の子だとかいう話?」

「そーだよ!クラスメイトが鬼の子なんだよ!?興味持ってよ!!」

「はぁー、それは言葉の綾ってやつ?それともほんとに君が鬼だってこと?」

「んー、どっちだと思う?」

めんどくさい…

「はぁ、僕は鬼とかそういう類の言わば妖怪って奴を見たことないから信じてない。だから君がほんとに鬼だとは思えない。」

「うっわ、ブレないね~じゃあ言葉の綾だと思うってこと?」

「さぁね、君が本心じゃ自分を鬼の子だと思うぐらい、自分に自信の無い子なのかもしれないね、そもそも僕は君のことを知らないし、君も僕のこと、知らないだろ」

「ざんねんでしたー私は自分に自信がありまくる華のJKでーす。それに、クラスメイトに対して知らないなんて失礼じゃない?」

「少なくとも僕は君がそんな突拍子のないことをいう子なんて知らなかったよ」

「もっと私を知りたくない?」

「いや、ほんと、意味わかんない」

「意味わかんないついでにさ、私と付き合ってよ」


始まりも意味がわからないものだった。そして今も意味がわからない。

「なんで断るの?」

「んー?なんでだろ?気分じゃないとか?」

そう言って彼女は豪快に笑った。まるで他人事かのように

「え?気分?僕、今なんて言ったと思ってる?」

「プロポーズ、してくれたんでしょ」

君、自分で言ったことまで忘れちゃったの?とでも言いたげな顔をしながら言って来るもんだから一体どうしたらいいのか

「僕と結婚したくないってこと?」

「君と結婚したら毎日が楽しいと思うよ。君面白いし何より私は君のことが好きだから」

もう交際を初めて七年経つ。週末もお互いに別の用事がない時は一緒に過ごしてる。それなのに、だ、未だに僕は君のことが分からない。

「僕のこと好きなのになんで結婚はしたくないの?」

君は断るはずがないと思ってた。NOと言われる想像なんて全くしてなくて、僕が言ったら君は笑顔で喜ぶのか、それとも泣いて喜ぶか、のどっちなんだろうと思って想像してわくわくしてた。YESの返事であることを信じて疑わなかった。でも、結果彼女は笑顔で断った。

「したくないんじゃないよ。できないんだ。」

「は?尚更意味がわからないよ」

「旅行に行きたい」

「え?いきなり何?旅行?」

ほらやっぱり君はそうやってすぐ突拍子のないことを言うんだ。僕の勇気なんて無視してさ。

「そー旅行!何だかんだで忙しくて最近行ってなくない?どこがいい?」

海外行きたいなー、でもお金かかるしなー国内かなーなんて幸せそうな顔で行く場所を考えてる彼女の顔を見てると自分のことなんてどーでもいいように思えてきてしまうんだ。

「あー、もう!僕はまだ行くなんて言ってないよ!!軽井沢に別荘があるけどっ?」

「ふぅーい!さすが!じゃあ明日、君の家ね!」

「はぁ!?!」

明日っ!?いや、そりゃ休みだよ?土曜だもん、月曜は海の日だから連休だけれど!僕の用事とかは無視ですか?

「これだから君はめんどくさい」


「おっはよー!」

「おはよ」

「ん?何だかテンションひくくなーい?旅行だよ!私との旅行だよ!愛しの彼女との旅行だよ!いえーい」

「僕からしてみたら君がなんでそんなにハイテンションなのか不思議なくらいだよ。それに僕はその愛しの彼女からプロボーズを断られて傷心中なんだよね」

「うわー、さすが軽井沢!涼しいね!あ、そう言えば一番大事なこと聞き忘れてた!君の別荘さ、木が新しく一本立つくらいの庭ある?」

うわっ、驚くほど見事にスルーしたよ。彼女に良心ってものはないのか?

「庭?あると思うけど?植樹でもするの?」

「んー、植樹では無いけどそんなとこかな。それよりさ、やっぱ軽井沢といったら“旧軽井沢銀座”でショッピングだよね〜」

「え、ショッピングするの?聞いてないんだけど」

「え、ショッピングするよ?今言ったじゃん。

何買おっかな〜やっぱ軽井沢って言ったらジャムかな〜」

「君の買い物長いから付き合ってたら僕お地蔵さんになっちゃうよ」

「だいじょーぶ!君がお地蔵さんになっても私は君のこと好きだから」

そう言いながらもうすでに楽しそうに物色し始めてるし

「君に言われても今の僕には素直にうなずけるだけの広い心や底なしのポジティブくんではないよ」

君は心底不思議だという顔をして

「何言ってるだい?君ははなからポジティブな方ではないだろう?」

そーだよ、僕は元からポジティブな方じゃないんだ。

どうせネガティブシンガーですよ。根暗ですよ。そんな僕が君へのプロボーズの時断られる想像をしなかったなんて自分でも信じられないんだよ。

「ねー、こっちのとこっちのどっちが美味しいと思う?」

「君は悪魔だ」

そう恨めしさそうに君を見るとニカっと笑って君は何かを言った。

(違うよ、私は鬼の子なんだよ)


「軽井沢って言えばさー、やっぱり“いなごの佃煮”だよね〜」

「ちょ、ちょっと待って!なんで?どうしてそうなるの?違うでしょ?てか、軽井沢って言えばの下り多すぎだし、軽井沢って言えばそこは信州そばとかじゃないの?いきなり何食べに行こうとしるの?僕やだからね、お昼ご飯がいなごの佃煮なんて」

「どーどー、ツッコミの渋滞かい?そんないきなりまくし立てられても」

「いやいや、そんな、やれやれみたいな顔してるけどそんなキャラじゃないことさせてるの君だから」

「いなごの佃煮とか無理、そんなゲテモノみたいなの、見るのでアウト、食べるのなんてレッドカード」

「ちょっと、君それはいなごの佃煮作ってる人達失礼じゃない?」

「うっ、でも、え、ほんとに食べるの?」

心底嫌だという顔をして彼女を見つめると、その顔が見たかったんだとでも言わんばかりの意地悪そうな笑顔で

「人生何事も経験だよ。なんでもやってみようがモットーだからね、人生一度しかない。しかもタイムリミットがあるんだからやれることなんでもやって感じれることたくさんの感じたほうが得じゃない?そんで死んだ後に天界で君ら生きてる間にそんなこともしてこなかったの?私はこんなに色んなことして、色んなこと感じてきたんだよ?すごいだろ!って自慢するの」

「何?君、死後の世界なんて信じてたの?」

「えー?どーだろ?でもあるって考えた方が楽しくない?死後の世界があるかないかなんて死んでみれば分かるんだから議論の余地はないよ。何事をプラスに考えるに尽きるのさ、ネガティブシンガーくん」

だれがネガティブシンガーだ、という不満は僕のひろーい心にしまっておいてあげることにして、

「それもまた君のモットーですか?らしいよね、ほんと」

「まぁ私が天界に行けるか行けないかは鬼様次第だけどね」

「おにさま?いや、そこは神様、でしょ?」

「君はね」

そういい、したり顔で笑いながらスキップをしだす

こうなったら何を聞いてもさぁ?とかなんででしょー?とかいってはぐらかされるのは目に見えてる。僕だって馬鹿じゃない。君のことならそこらのやつよりよっぽど詳しいんだ。なんて7年の交際期間なんだから。

「そう言えば桜咲いてないね」

「そりゃあね、今何月だと思ってんの?7月だよ?夏だよ?」

「桜好き?」

「まぁ普通に好きだよ」

「だよねー」

あ、セミだー!なんて言いながら鼻歌を歌っている彼女を見て思う。

さすが意味わかんない星人だ。


僕達はいいまでのことを沢山、沢山話した。そしてこれからのことも

「私さ、子供は沢山欲しいんだ。賑やかな家族にしたい。賑やかで、笑顔に溢れた明るい家族。」

「だから、それを僕と」

「うん。作れたらすっごい幸せだろうね。想像するだけで涙が出そうになるくらい。」

そうおちゃらけていう彼女に怒りが湧いた

「じゃあなんで!?」

なんどもなんども、この旅行中も考えないようにはしてても、思ったこと。なんで?どうして?

「そんな怒んないでよ。ごめんね。」

泣きそうな顔をして、つらそうな顔をして、なんで?どうして?君がそんな顔をするんだよ

「私は鬼の子だから」

何処かで聞いたことのあるその言葉。

「えっと、言葉の綾ってやつ?」

「うっわ、七年前とかわんない答えだね」

「そりゃあ今でも信じてないからね、妖怪の類なんてさ」

「目で見たもの以外は信じない主義でしょ?でも、鬼は今君の目の前にいる。」

「それは7年も付き合った恋人からのプロポーズを史上最凶に意味の分からない理由で断る、心が鬼のようなやつが僕の目の前にいるって話?」

今まで無いほどの屈辱だと思った。七年付き合ってきた彼女にプロポーズしたら変な嘘つかれて振られるなんて

「んー、どうすれば信じて貰えるんだろう?でも、もうすぐなんだ」

「なにが」

「私が死ぬまで」

「し、ぬ…?」

「んー死ぬってか消えるって言ったほうが正しいのかな?私のこの姿はこの世界から消える。」

「は?意味わかんない」

「今でも若干薄くなってんだけど分かるかな?ほら」

確かに最近白くなったなぁとは思ってた。でも、女性は化粧とかがあるからそんなもんで白くしてんだろう、ぐらいにしか思ってなかった。確かに目の前にある彼女の腕は白いと言うか透き通るかのような色になっていた。

「どう?美肌?」

おどけていう彼女に怖くなった。

「ほんとに消える、のか?」

いやそんなはずはない。物理的に考えて人間が消えるなんて聞いたことがない。人間が消えるなんて、、、

じゃあ人間じゃないのなら?もしほんとに彼女が人間じゃない別のナニカだとしたら、彼女は消えるのか?

もしほんとに人間じゃない“鬼”なら

「うん、消えるよ、あと持って2時間ぐらいかな?鬼って人より長生きなんだよ、200歳ぐらいまで生きるの。」

「なら何で!」

「言ったでしょ?私は、鬼の子だって。あ、といってもいまは人間なんだけどね?鬼の子から鬼になるのは24歳って言われてる。去年の昨日、私は鬼になるか、人でいるかの選択をしたの。もちろん、私はずっと人になりたかったから人になることにした。でも、鬼が人になんて当たり前だけど、ノーリスクでなれる訳じゃない。人でいられるタイムリミットは1年間。」

「1年、間?」

「そう、これでも少し伸ばしてもらってるの。昨日、凄く嬉しかった。サプライズとか苦手な君が誕生日にプロポーズしてくれるなんて夢にも思ってなかったから。泣いて喜びそうになったよ。」

ああ、やっぱり君は泣いて喜んだのか。

「最後に君との時間が欲しかった」

「ねぇ、今なら全部嘘だって言っても笑って許してやるよ?怒んないよ?」

「ごめんね、ほんとなんだ、」

ありえない話なのに、君のその顔があまりに悲しそうで、苦しそうで、辛そうで、

「庭に行こう、準備をしなくちゃ」



「私は死んだら桜になるんだ。」

「はぁ、?意味、わかんない。お前はくるみだろ、クルミがかわいそーじゃん、そこはクルミになるっていってやれよ」

「ふふっ、口、わるくなっ、て、るよ。」

「うっせー、よ。」

お互いの顔をじっと見て逸らさない。涙でぐしゃぐしゃになったその顔を忘れないでおこうと必死に見つめるのに、消えてゆく彼女を見てると焦燥感が掻き立てられ何も考えられなくなる。

「桜の花は咲いたらみんなに喜ばれて、みんなを笑顔にしてあげられる。

散ったら散ったで次咲く時を楽しみにされるんだよ。すっごく、すてき、じゃない?私はずっと、そんな人になりたかった。でも、なれるんだよ、やっと、死ぬのが楽しみになっちゃうぐらい、素敵だよ」

「楽しみになんてしなくたってもうすくだよ、ばか」

「うっわ、ほんとに死にかかってる人目の前にしてそんなこと言っちゃうんだ、そんなんだからモテないんだよ、ばか」

「…君が、くるみがいるだろ?」

「まったく、君は、ほんとに甘えん坊なんだから、ねぇ…幸せに、なってね」

そう言って微笑む彼女は桜なんかよりずーとずーと綺麗だった。でも、そんなこと知ってるのはきっと僕だけだ。きっと、そんな顔を知ってるのは僕だけだ。









「あの木はくるみって言うんだよ。」

「パパ、あれはさくらだよ!」

「うん、桜の木だけどくるみって言うんだ」


僕は今、幸せだよ。








私は鬼の子。

鬼は人から憎み嫌われる。


それでも私は人になりたかった。

君の隣にいたかった。


私のこと忘れて幸せになってなんて言えないよ。

でも、私のことを思い出にして幸せになってね


私の分まで幸せになってなんて言わないよ。

だって、私の分は私の分で君のおかげて充分、幸せすぎる程に幸せだった


私はここで、桜の木になって、君の幸せを願ってる。


最後まで読んで下さり本当にありがとうございました。

講評、感想、レビューなどをつけて下さると嬉しいです。

よろしくお願いします。

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