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07 AI現代



 『ヒューマロイド』――。


 世間は、AIという頭脳によって自律活動する者達をホビロイドとかアンドロイドと呼ぶ。

 曖昧かつ総称としてのそれであるが、その中にあって明確な名称と区分を持つ存在がある。


 それが、ヒューマロイド。


 特性の一つとして、遠目からだったり、爺さん婆さん辺りならたぶん見間違うだろうくらいには「人」と酷似しているのは言わずもがな。


 それでも、少女レノの「まるで人そのもの」なハイクラスのヒューマロイドは稀だ。


 逆に、人工機能内蔵〈インプラント〉や外部身体拡張〈ボディ・メイク〉らの流行りで、あれこれイジっている人間(ヤツら)のほうが「よっぽどヒューマロイドしてるわっ」と言える程だ。

 なお、決してご近所の若者に対する偏見や嫌味でもないことは付け加えておく。


 俺自身に至っては、法律で義務付けられている〈ID〉以外のインプラントはない。

 頭の固いおっさん世代だからってわけでなく、生まれ持っての”ありのままを愛する精神”、すなわち、自然美探求者ナチュラリストの一面を持つ男なんです。


 だから、ナチュラルメイクな女子も好きなんです。

 だから、レノちゃんも――だったんだが、今や事情が変わってしまった。


 AI……確立されたAIな現代。

 日本全体の自律可動型AIの個体総数が、ざっくり300万体くらいと聞く。

 その内、ヒューマロイドと認定されているのは500分の1以下、らしい。


 そんなヒューマロイドのほとんどは政府、特に軍備関係に従事している。

 なので、俺のような一般人が接する機会なんてまずない。

 それでも「会いたい」と願うのなら、ヒューマロイドのアイドルユニットが今活躍中なので、そのライブに行くことをお勧めする。


 さすがは『Alice』の開発に携わった葵財団の全面バックアップ――というのもあり、有機物素材〈バイオコート〉満載の彼女達のその外観(クオリティ)は、素晴らしいの一言に尽きる。

 ちなみに俺は、右から二番目の髪がコバルトグリーンなコバるんを推す。

 そう、「コバコバ、るんるん♪」の口癖でおなじみのあの子だ。


 そうして。

 普通のアイドル以上の意味合いとかもあったりで、その注目度も高い彼女達の活動意義でもあるのだが――。

 AIの人権問題なんかも抱える現代社会。

 ヒューマロイドの在り方についてはいろいろと賛否両論があったりで、今なお国会とか有識者の間で先の見えない議論が繰り広げられていたりもする。


 自分達を模倣したロボットがAI〈人工知能〉によって意思という心を持てば、それはもはや「人」ではないのか。

 そんな価値観を誰しもが持つ。

 よって、ヒューマロイドには常に倫理的だとか道徳的だとかの人間のエゴがつきまとうのだ。


 「似過ぎている」というのは、差別でもない区別をあやふやにしてしまう。

 それの是非なんてのは、俺にはわからない。

 あと、わかないことに――、例えば、「ヒューマロイドの幼女の裸」はどういう風な扱い方にしていくんだろうか……とやんわり。

 それは児童を歪んだ慈しみででる変態行為ロリコンになるのか、そうではないのか。


 ま、しかし。

 やんわりだろうとがっつりだろうと俺には関係ない。


 そうキッパリ言い切れるくらいの紳士な俺にわかるのは、『ヒューマロイド』と呼称されるAIが、他のAI達より特別視されていること。


 それから、『ヒューマロイド』と区別できるAIを個人所有することは基本的にはNGで、どうしても所有したい場合は国際的に定める条件を満たし政府の特別認定を受けなければならないこと。


 また自律可動型AIの製造自体は政府と『Alice』の許認可制らしいが、『ヒューマロイド』だけはなかなかにその承認が下りないらしい。

 ちまたでは、人権団体とか国際AI機構とか、はたまた利権が絡んだりとか、いわゆる大人の事情で難しいんだろうね――て、いう話だ。


「ふう……」


 てけてけ道を歩きながらに、何度目かのため息。

 そんな俺の傍ら下方向には、てとてと犬型ボビロイド。

 手錠の両手を腹の前で組む俺。

 そんな俺の後方には、たぶん拳銃を持ったままのいけいけ女子高生。


――こうしないと、閉まらないのコレ。コツがいるの。


 カフェの裏口のドアはその扉の下辺りを女子高生から蹴飛ばされることで、ウイーンと閉まった。


――こういうプレイなんですぅ~。


 手錠をしながら通路をゆく俺。

 人通りを避けながらも、たまにすれ違う通行人。

 その訝しむ通行人を、女子高生は上手く苦笑させていた。

 

「違うんだよなあ……」


 そう違う。

 俺が思い描いていたカフェのレノちゃんと後ろのレノちゃんは別人くらいに。

 もっとほんわりしているのが俺のレノちゃんだろって話だ。

 なんだ、こんなバイオレンスで勇ましい感じでちょっと下品なことも言っちゃう辺りとか、ほんとなんなんだっ。


「着いた。これに乗って」


「あ、はい……」


 カフェから幾分離れた地下駐車場。

 そこに停めてあった小型の古そうな車。

 素直に従い、言われるがままに、押し込められるままに――俺は助手席に乗り込む。


 ニューストピックに挙がりそうな「中年男性、女子高生にさらわれる」が完遂されようとしていた。

 拉致の主犯がヒューマロイドである点と、俺が本気を出せばあああ――な点で、どこか楽観視しているところもあったんだけど。

 いよいよ以って、笑えなくなってきているような気がする……。



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