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01 認めたくないものだな、俺がおっさんだということを



       ◇ ◇ ◇



 Artificialアーティフィシャル intelligenceインテリジェンス の略、AI。


 その言葉が導く未来について、よく耳にしていた事がある。

 AI〈人工知能〉が急速な発展を遂げた結果――。


 世界は滅亡する、と。


 正確に言えば人の世界、つまり人間社会が滅びるということだが。

 

 膨大な情報処理の計算用途から始まり、選択するプログラミングやらなんやらの過程を経て、知能と呼べるものに至った。

 頭の良い人達が生み出したその知能は、それはそれは頭脳明晰である。


 なので、人間はその優秀な知能――AIに新たに頭の良いAIを生み出させようとした。

 すると予想通り、よりハイスペックなAIが誕生した。

 それは人では補えない知能を持つAIとなった。


 そんなAIは”考える”ゆえに、必然自我を確立する。

 俺達人間のそれとはまた違う定義の自我なのかも知れない。

 ただそれでも、決められた答えに従うとは違うその思考プロセスを、人類は人のそれと同じものとみなした。

 それを踏まえ、学者達の間ではしばしば、この自我を持つAIの思考の先が問題視されていた。


 なんでも、

 地球にとって人間の存在が有害と判断したり、とか、

 合理的かつ効率性を追求しよう、とか、

 で、人を排除したり徹底的な管理社会で人を支配しよう――こんな答えに行き着くそうな。


 すなわち、人間社会の進化形態であるAI文明で構築された社会、AI社会は――人類の終末的世界デストピアへ進むそれだ。

 そう警鐘を鳴らす人達もいた。

 そして俺はその話にどこか説得力を感じ、とても不安を覚えていた。


 映画でもあった。

 人間は完全な自我に目覚めたAIロボットらと、種の存続をかけた戦争をしていた。


 だから、きたるその未来の現在。

 俺の今、2040年の日本は、予想していた通りの世界――とは、遠いものだったと言えるだろう。


 ならば。


 現代に生まれたすべてのAIの母たる『Alice〈アリス〉』。

 彼女が出した答えの是非は、今の現実を以って実証となるんだろうか――。


 などと、この辺りを俺がそれっぽく首をひねっても仕方がないな。

 きっと偉い人が判断して決めるんだろうとして、アレだ。

 AI社会になると職が奪われるとかの懸念があって、それは当たっていた。

 だから、それを近年身を以て知るアラフォーな俺こと田中 りょうは、むろん無職だったりする。


「リョウは、今日もカフェザンマイですか」


 雑踏の街並み、気持ちの良い昼下がり。

 アスファルトの通路をてくてく歩く俺の足元から、とことこ歩く犬型ロボットがチクリと言いやがる。


「人手に事欠かない世の中なんだ。焦ってもどうにもならない。だったら前向きにニートな時間、もとい余裕がある時間を有意義に使うべきだろ」


 丸っこいフォルムのAIロボ『クロム』に、おどけて答えてやった。

 俺の皮肉も理解しているようで、犬っぽい無機物素材の顔を器用にも呆れた様にして返してくれる。

 目玉景品としてゲットしたこいつとは、かれこれ……あと少しで、10年来の付き合いになるなあ。


「ボクとしては、早く余裕のあるマネーを取得してもらって、バージョンアップを行って欲しいのですけれど……」


「更新なら今朝もやっていただろ」


「ソフトウエアの方ではなくて、ハードウエアの方です。ボクくらい旧式のボディを使っているWON-108はそういないですよ」


「そのうちな」


「リョウのそのうちはどのうちなんでしょうか。時間もしくは期間をはっきりとおしえて欲しいものです。そうやって物事をゴマカシたり後回しにするのは良くないとおも――」


 クロムの小言は右耳から左耳へ流しながらに。


「そんなにマネーが欲しいんだったら、お前を売りさばくというのはどうだろう」


「ザンネンなことに、ボクみたいな旧式のボディでは大した価値になりません。本当にザンネンです。ハードウェアさえ最新のものだったらと悔やまれますね」


 しつこいヤツめ。

 まあ、それくらいでちょうどいい冗談話になるってものだ。クロムのようなAIロボ、ポビロイドの売却は禁止されてるからな。

 俺達二人はそんな他愛もない会話をしながら、足繁く通うカフェへ直行した。


 そして、今思えば……。


 運命というシナリオがあれば、この時既に俺の死亡事項は決まっていたのだろう。





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