[97]
言ってしまってから顔が真っ赤になり、額に汗が吹き出してくる。
竜伸を見つめていたかさねの顔も真っ赤に染まった。
だが、頬を染めつつかさねも、竜伸の瞳を見つめて言った。
「私もですよ、竜伸さん。私も――あなたのことが好きです」
「かさね……」
「竜伸さん」
相手の名前を呼びかわし、ふたりは見つめ合う。
やがてゆっくりと互いの距離が縮み、そして――
竜伸は、かさねを抱き締めた。
そして、互いの瞳をもう一度見つめ合ってから、ふたりは目を閉じそっと唇を合わせた。
(かさね……かさね……)
この時をどんなに待っていただろう。
どれほど深く望んでいただろう。
だが……。
これが最初で――
最後なのだ。
しばらくして唇が離れ、竜伸とかさねは互いの腕の中にいる相互の瞳を見つめ合う。
ほぼ、同時にふたりの瞳から涙がこぼれた。
「かさね……」
「竜伸さん……」
「あのう……取り込み中すまんのじゃが――――」
「「ひ、ひ、比売神さまぁぁぁぁ!!!」」
抱き合う竜伸とかさねの脇にちょこんと佇んだ小さな女神さまが顔を真っ赤にしながら恥ずかしそうにふたりを見つめていた。
かさねがあわあわと目を泳がせる。
「ひ、比売神さま。い、い、今の見てましたよね?」
「うむ。かさねも大人になったんじゃなぁ、と――感慨深かったのう。今日は、藤丸に赤飯を炊いてもうらおうかのう」
「きゅううううぅぅぅぅぅぅーーーん!!」
竜伸は、自分の胸に顔を埋めて恥ずかしさに悶えるかさねを宥めてやりつつ、「?」と首を捻った。
比売神さまがここに来る用事に心辺りが無かったからだ。
竜伸を見送る作業は、かさねが一人でやると、改めていちかを経由して『例会』から通知を受けていたのだ。
だから、比売神さまがここに来る理由も無い筈なのだが……。
比売神さまは、そんな竜伸の胸の疑問に答えるかのように、まだ、薄らと赤い頬に満面の笑みを浮かべて、「朗報じゃ!」と胸を張った。
「朗報?」
「ろーほー?」
竜伸と竜伸の腕に抱かれたかさねが聞き返す。
比売神さまは、得意げに鼻をうごめかすと、にぱっ、と微笑んだ。




