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「そなたが、さっきぶん殴ったのが効いておるようじゃ。術が当たるようになったぞ。
お手柄じゃ、竜伸」
「でも、比売神さま…………」
「うにゃ?」
「あいつ、祟り神の頃は、ここって言う弱点が見えましたけど……」
「うにゅ……」
「今は、どこを撃てばいいんだか…………」
二人は一転して眉を顰め、どちらとも無くため息を吐く。
竜伸の魔心眼も、こうなっては役に立たない。
「そなたにも、見えぬとはのう。やはり、ドカンと一発、大技を直撃で喰らわせるしかないのかのう……」
竜伸と比売神さま、それに女将さんの三人でかなりの攻撃を加えている筈なのだが……。
これまでの所、決定打には程遠い。
だが、諦めてしまう訳にはいかない。
それに、女将さんの体の状態も気になる。
壁にめり込むほどの勢いで邪神に殴られながら、女将さんは再び立ち上がって今も戦っているのだ。
「こんなもの、慣れっこさ」と本人は、さらりと言っていたが、体への負担は決して小さくない筈だ。
時折ちらりと見せる女将さんの苦しそうな表情が竜伸の胸に重くのしかかっている。
(早く邪神をなんとかしないと……)
女将さんが方術で攻撃している間に、二人は射撃の体勢に入った。
比売神さまの霊力が竜伸の銃に満ちていき、銃が蒼い光を放ち始める。
と――――急に辺りが真っ暗になった。
「「はて?」」
二人が顔を見合わせて首を捻っていると、天井に満天の星が輝き出した。
それを見て、比売神さまが竜伸の肩越しに身を乗り出して叫ぶ。
「かさねじゃ!!」
「え?」
「竜伸、これがかさねの得意技『星霜歌』なんじゃ」
辺りを狼狽気味に見渡していた竜伸の脳裏に、ある事が蘇る。
始めてこの世界に来た日。
畑で見た星空。
あれは――――。
「来るぞ! かさねめ、無理しおってからに……加減が出来ておらぬ!!」
「え?」
「邪神以外は、わらわも含めて皆消し炭じゃ!!!」
「ええぇぇぇぇ!」
「まったく……。あれほど『機を見て逃げよ、約束じゃぞ』と言うたのに……」
とは言え――と、比売神さまの袖を掴んで狼狽する竜伸に、比売神さまはクスリと笑って片方の目をつぶって見せる。
「まあ、案ずるな竜伸。かさねの事じゃ、最後はなんとか帳尻を合わせるじゃろう」
そんな二人のやり取りの間にも、星達がゆっくりと白銀の尾を引きながら弧を描き、光の渦が天井一面を覆って行く。
やがて、中央の一際明るい星が目もくらむ光を放つと――――
耳を劈くような轟音が世界を揺るがした。
視界が真っ白になり、爆風が吹き荒れ、四方八方から叩きつけて来るような振動の嵐に体が悲鳴を上げる。慌てて背負った銃のスリングが胸に食い込み、食いしばった奥歯をすり抜けて悲鳴が漏れた。
(かさねぇぇぇ! 本当にみんな死んじまうぞぉぉ!!)
すると、そんな竜伸の声が聞こえた訳ではないだろうが、ふっ、と辺りを覆う力が弱まり
――辺りは一瞬にして静寂に包まれた。
ボロボロに壊れてしまったカウンターの後ろでなんとか爆風を凌いでいた二人が辺りを窺いつつそっと立ち上がると、そこには
「かさね!!」
「竜伸さん!!」
青ざめた顔に心なしかくすんだ金髪を貼り付かせて、かさねが微笑んでいた。




