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(本当にこれで、全て終わってしまうのか? でも、そんな……)
竜伸は、一縷の期待を込めて背後にいた金村比古神に振り返る。
だが、そんな悲壮な結論を裏付けるかのように神である金村比古神でさえもが苦渋の表情を浮かべて黙り込んでいた。
今、ここで起きている事は、それほどまでに深刻な事態なのだ。
もはや、誤魔化しようがなかった。
(……いや、待て! 待ってくれ!)
竜伸は目を閉じて、動揺の波に呑まれそうになる思考をなんとか落ち着けようとする。
ゆっくりと息を吐いた。
ここに来るまでの街の惨状が、竜伸の脳裏を過ぎる。
もし、ここで鎮める事が出来ず邪神を外に出してしまったらどうなるのか?
彼女達の出した結論は、その事を天秤に掛けた上での結論なのだろう。
だが、それでも――
(俺は、諦めたくない……。もう一度、もう一度かさねに逢いたい! みんなのいる金色堂ミルクホールに帰りたい!!)
かさね、比売神さま、女将さん、やよい、みくも、藤丸、そして――いちか。
みんなが居てこその『金色堂ミルクホール』。
異世界である『黄泉の国』の竜伸の居場所。
帰るべき家。待ってくれている仲間達。
(……絶対に譲れない! 俺は、みんなと一緒に金色堂に帰るんだ!)
ふっ、と竜伸の頬に笑みが浮かんだ。
どれほどの困難が目の前にあろうと――結論は、とっくに決まっていたのだ。
じゃなければ、誰がこの世界に、やっと帰れた元の世界からわざわざ来るというのか?
竜伸に逢いたくて死にそうだった、と言って涙を流してくれる姉を置いてまで来ると言うのか?
(……俺も、相当めんどくさいな)
竜伸は、内心自嘲しつつ静かに言った。
「――――す」
「……竜伸くん、なんて言ったの?」
「竜伸さん?」
「……竜伸兄さま?」
「「……………?」」
顔を袖で拭って背中越しに尋ねるやよいと竜伸の顔を覘き込み思わず聞き返した金村比古神とみくも。
そして、腕の中で目を見張るいちかとその脇に跪いていた少女なつき。
竜伸は、皆にもう一度言った。
「俺が、邪神を鎮める。いちかやみんなの借りは、俺が代わりに返す!!」




