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「私のせい……。私のせいで……かさねちゃんが……みんなが……」
「いや、それは違うだろう。みくもちゃんから聞いたぜ。そいつは、おまえにとり憑いてたんだ、って。だったら――」
「でも、そんなの言い訳じゃない! だって……だって、私、かさねちゃんにケガさせて、その上、おうの様にまで……。もっと、もっと早くに憑かれた事に気が付いてればこんな事にならなかったのに……。私の……私のせいで……」
「いちか姉さん!」
例のお下げの少女が、いちかの脇に膝を着いた。
竜伸といちかが話す間、両替屋の店員から何かを告げられていた少女は、声を震わせた。
「やっぱり、どこからも応援は来ません。祓い屋さんも宮司さんも祟り神や怨霊の対応で手一杯だって、それに政府も……。もう、ここを封印するしか手が無いです……」
ごめんなさい、ごめんなさい……。
少女は、そう言うと、いちかの肩に顔を埋めて声を上げて泣き出した。
いちかは、自身も涙を流しつつ、泣きじゃくる少女の肩を抱きよせ「ありがとう、なつき」とその耳元に囁きながら彼女の頭を撫でた。
「どういう事だなんだ、いちか? 応援って?」
「邪神相手に私達だけじゃ適う訳無いから……他の乙女の人達や、祓い屋さんや宮司さん、政府に応援を頼んだんだけど……邪神は、私に憑いていた時に私の頭の中の『例会』の情報を、力のある乙女達の事とか、親交のある宮司さんや祓い屋さんの情報を読まれてしまったらしくて……」
いちかの両の瞳から涙が溢れ出る。
「――邪神の出現に呼応するみたいにあっちこちで祟り神や怨霊が現れて……その対応に追われて誰も応援に来られないって……誰も私達に力を貸す事は出来ないって…………。つまり――私達だけで、邪神をなんとかしなければいけないって」
「おい……それってつまり……?」
「私達には、今の私達の力では、もう、どうする事も出来ないの……。ただ一つ、方法があるとすれば……さっき、なつきが言ったように女将さんやかさねちゃん、比売神さまを助ける事を諦めて――」
いちかは、一端言葉を切り、泣き声と共に吐き出した。
「両替屋ごと……完全に封印するしか……ないの…………」
いちかは、そこまで話すと竜伸の腕の中でしくしくと泣き出した。
翡翠色の瞳から、止めどなく溢れ出る涙。
いちかだけでは無かった。
いちかの脇に膝をついたなつきという少女も、そしてそれまで皆の話を黙って聞いていたみくもも、両手で顔を覆って泣いている。
そして、扉を結界で封鎖するやよいも、小刻みに肩を震わせ声を殺して泣いているようだった。
もう、誰も中にいる三人を助ける事はできない。
それがこの場にいる『日女の乙女』である少女達が達した結論だった。




