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竜伸とみくもは茫然と辺りを見渡した。
辺り一帯を覆う瓦礫の山と漂う焦げくさい匂い。
無事に建っている建物は、ほとんど見当たらず、皆どこかしら壊れ、崩れていた。
そして、目の前のほぼ全壊した建物。
記憶が確かなら、この場所が金色堂ミルクホールのはずだ。
一縷の望みを掛けて店内に、否、店内だった場所へ竜伸はみくもと共に足を踏み入れる。
木製の床の上に竜伸の靴が触れた途端、傍に立っていた壁の残骸からレンガが転がり堕ち、そばの水溜りから思いのほか大きな飛沫が飛んだ。
空に突き刺さるようにして立つ焼け焦げた鉄骨。
瓦礫の下から覘くアルミのお盆。
かさねとやよいどちらかが使っていたものだろうか……。
一面に飛び散ったグラスや照明の破片。
ぽつんと残ったカウンター。
そして、真っ二つに折られた看板と思しき金属製の板が足元で苦しげな音を立てる。
そこには「金色堂ミルクホール」と書かれた文字が微かに見て取れた。
間違いなく、ここは、確かにあの『金色堂ミルクホール』だった場所だ。
「かさね! 比売神さま! いちか! やよい! 女将さん! 藤丸さん!」
呼び掛けた竜伸の声に応えはない。ここに来るまでに通った廃墟と化した町にも人影は見当たらなかった。ここでも相変わらず人の気配は全く感じられない。
「かさね姉さま! 比売神さま! いちか姉さま! やよい姉さま! 女将さん! 藤丸おじさん!」
みくもも釣られて叫ぶ。
竜伸は、注意深く辺りを見渡しながら店のさらに奥へと進む。
足元の残骸が不快な音を立て、僅かに残された壁面から、時折、細かな破片が舞い落ちる。
竜伸は残されたカウンターに歩み寄り中をそっと覘き込む。
カウンターの中は、砕け散った皿やグラスの破片、どこにも繋がりそうもない電話機などが散乱し足の踏み場もない有様だ。竜伸は、カウンターの中に入るのを諦めて視線をカウンターの奥と向ける。そこは、かつて女将さんやかさね達の寝室へと続く階段があった場所だ。
そして、その階段は、厨房だった小部屋の隣に茫然と佇むドア枠の奥に見えた。
否、正しくは、その残骸が見えた。
下から数段目までを残して階段は途中で消え、まるでみんながそこを上って空の彼方に行ってしまったかのように、残骸だけがそこにはあった。
「くそっ……!」
足下の残骸が軋ませ、竜伸は膝を着いた。




