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「でも……。相手は……邪神……だって」
「よこしまがみ?」
「はい。みくも前に比売神さまから聞きました……昔、鎮めようとした人達が……神さま達が、みんな殺されちゃったって……。邪神は、とても恐ろしい神さまだって。うぅ、だから……みくも…………」
みくもは、なおも言い募る。
幼い少女が言う事だけに動かし難い真実味がその言葉の端々に満ちていた。
それでも――と竜伸は歯噛みする。
(それでも、俺はみんなを、かさねを助けたい!)
例え、それがどんなに危険であったとしても。
例え、それがまた向うの世界への片道切符になったとしても。
だから――――
「俺を『黄泉の国』へ連れて行ってくれ!! みくもちゃん、出来るんだろ?」
目を見開き困惑するみくもを見つめて竜伸は言葉に力を込めた。
「みんなの力になりたいんだ。かさねを助けてやりたい。みくもちゃん、俺は『鉄砲撃ち』だ。ここでみんなの力になれなかったら、どこで力になればいいんだ! 頼む、みくもちゃん!!」
無意識の内に竜伸は、みくもの手を握りしめていた。
みくもの頬に血が上って仄かに赤らんでいた。
やがて曇っていたその瞳に生気が宿り、涙が影を顰める。
「竜伸兄さま……。みくもなんかで大丈夫かな?」
「ああ、『鉄砲撃ち』の俺が保証する!」
「でも……。ほんとに?」
そう、思う? という無言の問い掛けに竜伸は力強く頷く。
みくもは上目遣いに竜伸を眺めて、しばらくの間もじもじと恥じらっていたが、やがて決心するかのように大きく息を吸い込んだ。
「みくも、竜伸兄さまと一緒に戦います。ガンバリます!!」
「よし! じゃあ、決まりだな」
竜伸とみくもは、どちらからともなく互いの拳をコツンと合わせた。
だが、ふと、周囲の凍りつくクラスメイト達に視線を向けて
「ちょっと、待って」
竜伸がみくもに声を掛ける。
そして、慌てて机の中からあおいに借りていたウサギの形をしたメモ帳とボールペンを引っ張り出し、宙を眺めてしばし考える。
が、横で重箱を掴んだまま固まっている姉を見て思わず破顔した。
いつも通りでよいのだ。
いつも通りで。
竜伸は、みくもが脇から覘き込む中、一息にメッセージを書き込む。
そして、どこへ置くか辺りを見渡し、しばし考えて――――
あおいのおでこにセロテープで張り付けた。
これなら見落とす事も無いだろう。
字も走り書きではあるがちゃんと読める。
『あおいへ。すぐ戻る。泣かずに待ってろ。竜伸』
上出来だ。
「竜伸兄さま、この人は……?」
みくもが遠慮がちに尋ねた。
おでこにセロテープでメモを貼られた姉の顔をいま一度見つめ、竜伸は答えた。
「俺の自慢の姉貴さ。世界一の、な」
そして、並んで立つみくもへ手を伸ばす。
互いの手を握り、竜伸が言った。
「みくもちゃん、行こう!!」
「はい、竜伸兄さま!!」




