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「悪かった。ごめんな」
「……ホントに?」
「ああ、本当だ」
そう、確かに本当だ。
これは、あおいのご機嫌を取るためでも、思い付きでも無く竜伸の本心だ。
戻って来た日の事を思う度に、胸を駆け巡るこの想い。
あおいに引きずられるようにして戻って来たこの教室。
湧き立つような興奮に満ちたあの瞬間の事。
ばあちゃんと母親に一緒に頭を下げ、そして、単身赴任先から電話を掛けて来た父親相手に懸命に庇ってくれた、その日の夜の事。
『黄泉の国』の事は、無論誰にも打ち明けていない。
そして、その事が、居なくなってしまった理由を不明瞭にしか説明できないという事が家族みんなの怒りに拍車を掛けるのは百も承知だった。
でも、みんなには、ひたすら頭を下げて謝った。
そんな竜伸にあおいは何も言わず、最後まで付き合ってくれたのだ。
他の家族同様、思う事は沢山あっただろうに……。
それでも、何も聞かずに、ただただ自分を信じてくれている。
あおいにいま言うべき言葉は、これしかないだろう。
「本当にありがとうな、あおい」
「……うん」
小さく頷いたあおいの瞳にうっすらと涙が浮かんだ。
テーブルクロスの端をきゅっと掴み、何とも切ない表情を浮かべる同い年の姉が堪らなく愛おしい。
自身も顔を仄かに赤らめつつ竜伸は、パシンと膝を叩いて言った。
「飯食おうぜ、あおい」
「うん!」
嬉しそうに微笑むあおいに竜伸が照れ臭そうに机の上の重箱を示す。広げられた重箱には、竜伸の好物が所狭しと詰め込まれている。
竜伸が、紙皿に取り分けようとするのを制してあおいは、重箱の中の大学イモを抓む。
そして――
「はい、アーン」
やっぱり、それか……。
クラス中から注がれる様々な視線に全身を火照らせながら、それでも竜伸は、おずおずと口を開く。一回ぐらいはサービスすべきだろう、と言い訳しつつ。
大学イモがゆっくりと竜伸の口に近づいて行き……
がしゃぁぁあん!
何かが物すごい勢いで机の上に落ちて来た。
衝撃でひっくり返りそうになる重箱をあおいがすんでの所で押し止め、下敷きになりそうだった紙皿は竜伸が咄嗟に持って避ける。
息の合った連係プレーに姉弟の顔に思わず笑みが浮かぶ。
だが、そんな事よりも――――。
何が起きたのか、問うまでも無かった。
机の上に落ちて来たのは女の子。
着物に袴姿のおかっぱ頭の女の子だった。




