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「はい、アーン」
むぐぐ、と拳を握る竜伸に満面の笑みのあおいが唐揚げを掴んだ箸を片手に迫る。
二人の前には、重箱いっぱいの料理。
ご丁寧な事に二人が向かい合って座る竜伸の机には、どこから調達したのか白いテーブルクロスまでひかれている。
窓の外でここ数日降り続いている雨のうっとうしさもなんのその。
双子の姉は、今日も絶好調だ。
クラスメイト達の好奇の視線を浴びつつ竜伸は精一杯の皮肉を込めて同い年の姉に尋ねた。
「あおいさんよ、ここは何組だ?」
「二年E組よ。なんで?」
何事も無いかのように微笑むあおい。
もう、たまらんと竜伸が両手で机を叩いた。
「おまえは、B組だろう! 毎日、毎日、俺のクラスに弁当を持って来るな! 見ろ、みんなドン引きじゃねえか!」
「なによっ! 『ボクは、ずっと、あおいのそばにいるよ。ボクは、あおいの愛のドレイだよ』って言ってたじゃない!!」
「言ってねーよ! 確かに、俺はどこにも行かないし、おまえのそばに居るって言ったけど、四六時中とは言ってね―だろう。つーか、ドレイに『はい、アーン』って飯食わす主人がいるか!」
「いいじゃない、ちょっとぐらい! お姉ちゃんの欲求不満を解消するのも弟の大切な仕事でしょ、役割でしょ! ほらぁ、逃げないの! 口を開けて!!」
「やめんか、バータレ!! 自分で食えるっちゅーの!」
箸をかわしつつそう言って、その場から逃げ出そうとする竜伸。
その姿をわざとらしいくらい悲しそうな表情を浮かべて見つめていたあおいは、その鳶色の瞳にみるみる涙を浮かべた。
そして――
「うぅ……。竜伸がまた居なくなったら……グスッ……どうしようって……。それに、竜伸この頃なんか元気無いし。私、心配で……さみしくて……なのに……。エグッ。なのに、竜伸……ううぅ」
と、愚図り出した。
(ええぇぇ……)
これって、どうなの? と救いを求めるかのように辺りを見渡す竜伸。
だが、目に入るのは、クラスメイト達の白けきった視線と非難の眼差しばかりだった。
それどころか、
「あーそれ無いわ、竜伸」
「けっ!」
「あおい、泣かないで」
「ひどいね、竜伸くん」
「神代君、本当に反省してる?」
「このバカ!」
「ごっちゃんです!!」
「ポゥ!!」
非難の嵐だ。
どさくさにまぎれてなんか悪口とかも言われているような気もするし……。
まいったなぁ、と竜伸がおずおずとあおいを見ると……あおいは両手で顔を覆いつつ指の間からちらちらと竜伸の方を伺っていた。
目が合うと、慌てて「えーん」とまた泣き声をあげる。
(こんの、バータレは……)
やれやれ……。
ため息をついて首を振りつつも竜伸の表情は決して暗くない。
ウソ泣きも滅法得意であるらしい姉の前に竜伸は黙ってしゃがみ込んだ。




