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そうですねぇ、と腕を組み女将さんは宙を睨む。
「意外、と言えば意外でしたかね……」
「そうじゃろう」
「女将さん達もそう思ったんですかぁ?」
目を輝かせるやよいに女将さん、そして比売神さまは重々しく頷いた。
「それはそうじゃ。あのかさねが、いくらピンからキリまで居るとは言え、祟り神相手に成す術も無く一方的に追いかけられておったなど信じられる訳がなかろう。
そなたらも知っての通り同年代の乙女達の中で全ての面において、かさねはずば抜けた存在じゃ。そのかさねが、じゃ、ただの祟り神相手に後れを取ったとは、わらわにはどうしても思えんかった。
それ故、わらわは相手の祟り神をかなりの使い手、手強い祟り神じゃろうと踏んでおったんじゃ。
じゃからこそ、竜伸との事に関してもわらわの手が必要になるかも知れんと思って付いて行く事にした。で、そしたらばじゃ――」
一端言葉を切り、二人に顔を寄せる。
女将さんが続きを促し、やよいの喉がごくりと鳴った。
鋭さを増した二人の視線に比売神さまは、申し訳なさそうに肩を竦めた。
「それが、なんとも言えず妙でのう」
「分からない、ってことですかぁ? 比売神さまがぁ?」
やよいの戸惑ったような問い掛けに比売神さまは、ふるふると首を振ると物憂げに頬杖を付いた。
「いや、何とも雲を掴むような……といった印象じゃのう、あれは。なんと言うか……押せば引っ込み、引っ込めば押し返して来る。つまりのう――――」
「相手の祟り神には、常に余力があるように感じられた、と言う訳ですね」
心持ち青ざめ始めた女将さんに比売神さまは真剣な表情で頷く。
やよいも身を乗り出し食い入るように比売神さまを見つめている。
比売神さまは、さらに一段と声を落とした。
「それに最後に竜伸に鎮められた瞬間もわらわには解せんのじゃ。
あらましは、聞いておるじゃろうがあれほどの力を一端は見せておきながら、闇鎮歌の目くらましで簡単にコロリじゃ。一端は、竜伸の攻撃を避けたんじゃ。ひょい、といとも簡単にのう。
いくら素人に毛が生えたようなものとは言え、竜伸は『鉄砲撃ち』。腐っても『魔心眼』じゃ。
その攻撃を避けられようなどと誰が思う?
全く持って尋常ではない、異常なことじゃぞ。
戦っておるその時は、わらわも夢中だったゆえ、さほどに気にもならんかったんじゃが、落ち着いてから考えてみると、やはりどうにも気になる。
あれほどの力を見せながら、本当に最後は実にあっけなく鎮められよったんじゃ。なんと言うか……」
固唾を呑んで見つめる二人に比売神さまは呟くように言った。
「わらわは、一杯喰わされた気がしてならぬ」
「ですが、比売神さま相手にそれほどの負の力を持つ者となると限れらてきやしませんか?」
「……た、たとえば?」
「まるっきり見当が付かぬという事はあるまい、やよい」
比売神さまがそっとたしなめた。
そう、分からない訳では無い。
認めたくはない、そんな筈がないとでも言うように、やよいの瞳は怯えを帯びて潤んでいた。
女将さんの視線が鋭さを増す。
そんな二人に、比売神さまは、静かに言った。
「邪神……じゃな」




