[7]
祈るような気持ちで竜伸は二つ目の石を握る手に渾身の力を込める。
目の前の目標に集中した竜伸の感覚が研ぎ澄まされてゆくまさにその時――――。
――こめかみ
えっ? と竜伸は思わず目を見開いた。
――こめかみ
確かに『こめかみ』と聞こえた。
否、聞こえたのではない。
体の底から語りかけられたような、不思議な感覚。
そう、その感覚は『悟った』という方がふさわしいかもしれない。
(こめかみを狙って投げろ、って事なのか?)
そのイノシシは、と見ると、体を大きく振ったその振り向き様にこめかみの辺りと思しき部分がぼんやりと光っている。
(あの、光ってる部分が? まあ、顔の近くに当てられれば、よりイノシシの気を引けるけど……)
でも……という逡巡と恐れが竜伸の行動を鈍らせる。
(ここからじゃ、上手くいったって背中にしか当たらねえぞ……)
イノシシの巨大な体の向こうに儚げな少女の面影がちらちらと見え隠れしている。
石は残り一つしかない。
もし、外せば?
しかし、少女にイノシシが追い着くのは時間の問題だ。
猶予は無い。
でも……もし、もし当てられたとして本当に効果なんてあるのか?
…………。
……。
ぱんっ!
体にまとわりつく不安を追い払うかのように竜伸は自分の頬を空いている方の手で強く叩いた。
(今、ここであの子を助けられるのは俺だけだ。迷っている時間だって無い。やらないで後悔するより、一か八かでもやってみる価値はあるはずだ!)
竜伸は、足を止め、肩の力を抜いて息を整える。
(あの子を助けたいんだ! 頼む!! 当たってくれ……)
力を込め続けていた手の緊張を解き、軽く、柔らかく力を込め直した。
逸る心を静めて、吸い込んだ息を大きく吐く。
息はあがっているし、胸の鼓動もまだひどく早い。
だが、気分は決して悪くない。
いや、上々と言っても良いかも知れない。
そう思うと心がふっと軽くなったような気がした。
迷い戸惑う心に灯った小さなともし火。
それは、吹けば消えてしまいそうなほどの小さくて弱い光。
だが、胸に宿ったその小さな光は竜伸の中の闇を明々と照らして行く。
静かな闘志が竜伸の心に満ちてきた。
(やれる!)
その時だった。
ぼんやりとした淡い一条の光が宙を奔った。
竜伸の右目が放ち始めた蒼い光。
それは、ともすれば空の蒼に吸い込まれてしまいそうなほどの微弱な光だった。
それでも、竜伸の力強い意志が宿るその光は確実にイノシシを捉えていた。
少女を助けたい。
その『想い』だけが竜伸を強くまっすぐに突き動かしていた。
そして――――
そして、その『想い』を帯びた手から最後の石が放たれた。




