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胸に渦巻き、ともすれば溢れ出そうになるかさねへの想い。
竜伸は、今一度心を鎮めるため目を閉じた。
それは一秒、否、それ以下かも知れなかった。
でも、それで十分だった。
否……十分にしなければいけないのだ。
ここは、この世界は、彼女とその仲間達の住む世界であって竜伸の世界ではない。
本来の居場所では無い、居てはいけない場所なのだ。
帰らなければいけない。
この世界を危険にさらすことを何としても避けなければいけない。
それが、かさねを、引いては彼女の愛する仲間達とその世界を守る事なのだから。
竜伸は瞼を開いた。
うん、問題無い……。
気分は…………上々だ。
竜伸は、銃を握る手に力を込める。
僅かな間にも事態は進展していたのだ。
「竜伸さん!」
「竜伸くん!!」
かさねといちかの声が響く。
祟り神の黒々とした影が森の中から木々をなぎ倒しつつ勢いよく跳び出して来た。
銃口は、すでにぴたりと祟り神に向いている。
こめかみの白い灯を竜伸の銃の照門がいっぱいに捉えていた。
(今だ!)
竜伸は、細く息を吐きつつ引き金を引いた。
煌めく銃火。
肩にめり込む銃床。
放たれた蒼い光は、今度こそまっすぐに祟り神のこめかみを貫いた。
信じられないとでも言うように祟り神が、たたらを踏み、苦しそうに身をよじる。瘧を患ったかのように体を震わせ、悲鳴のような咆哮をあげ、のたうちまわる
そして――――ひと際大きく長い咆哮をあげた後、祟り神は一塊の光となり、そしてはじけ飛んだ。
無数の光のかけらが辺りに雪のように降り注ぐ。
そんな祟り神の様子を見たかさねが声を掛けようと身を乗り出したその時、竜伸もまた白い光に包まれていた。
かさねは、そっと竜伸の背中から離れ、少し距離を取る。
かさねの隣にはいちかが同じように立って竜伸を見つめていた。
竜伸もまた振り返り彼女達の瞳を見つめ返す。
――――ついに、その時がやって来たのだ。
竜伸を包むまばゆい光は、徐々にその輝きを増して行く。
「かさね!!」
「竜伸さん!!」
かさねの澄んだまなざしが、竜伸の力強いまなざしが互いを求めて交差する。
互いの声が交差した次の瞬間――
竜伸の姿が跡かたも無くその場から消えた。
急に持ち主のいなくなった銃がカタンと味気ない音を立てて地面に転がった。
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「いやぁ、ひどい目に逢うた。策士、策に溺れるとはこの事じゃのう」
かわいらしい手で目をこすりながら、比売神さまが木陰から現れると、かさねが銃を抱えて座り込み、その肩を隣に座ったいちかが無言で抱いていた。
何をするでも無く、ただ闇の向うを眺めてかさねは座り込んでいた。
比売神さまは、近寄ってかさねの顔を覘き込むと、何も言わずにかさねをその胸に抱き締めた。
りーん、りーん……と虫たちの涼しげな歌声が闇に染まった世界を覆っている。
沈む寸前の月の輝きを眺めながら、比売神さまは一言だけぽつりと言った。
「かさね、そなたはよく頑張った。本当に、ようやった」
かさねは、比売神さまの言葉に応える代わりにその小さな女神さまの胸にそっと顔を埋めたのだった。




