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夕日の国のファンタジア  作者: 生田英作
第1部
61/358

[61]


 かさねの方術による閃光は、ゆっくりとその効力を失って行くようで、目も開けていられない程のその輝きも先ほどよりは若干弱まった来たようだ。

 竜伸の銃を握る手にも力が入る。


 おそらく、次がラストチャンスだ。


 心を鎮め、銃口を祟り神のいる森の方へ向ける。

 木々の間から時折チラリと見える祟り神のこめかみに灯る光は、まだ閃光の残光とでもいうべき強い光でハッキリとは視認できない。

 それに――


「まだよ、竜伸くん。祟り神が森から出て来た瞬間を狙って」


 銃を構える竜伸とかさねの傍らに降り立ったいちかが低い声で制する。


(そうだ……)


 竜伸は、構えた銃を握り直し、頭上の月をチラリと見る。

 感覚としては、まだ一時間も経っていなかったが、どうもそんな事は無かったようだ。

 金色堂を出る際に見た時には空の高い位置にあった月が、今はかなり低い位置にいる。

 月が沈むまで、残り幾ばくも無い。


(焦りは禁物だ。次しくじれば、今度こそ本当に後が無い……)


 銃を構えたまま静かに、数秒後に訪れるであろう決定的な瞬間を待つ。

 その瞬間がかさねと過ごす最後のひと時になるだろう。

 そんな考えがふと竜伸の胸に過ぎった。

 かさねは、すでに落ち着き払って先ほど慌てていたのがうそのように万全の態勢である。

 かさねは心配無いだろう。

 そう、かさねは大丈夫だ。

 背中に置かれたかさねの手の温もりを感じつつ竜伸は自分に言い聞かせるように、その言葉を胸の中で反芻する。

 かさねへの抜きがたい思慕が、チリチリと頭の隅でくすぶっていた。

 どこかにかさねと一緒に居たいと望む自分がいた。

 だが――――かさねは、話してくれた。

 敷島屋の射撃場で。

 涙を流しながら。

 彼女の歩んできた人生を。

 胸に抱いていた思いを。

 

 そして、竜伸への、竜伸を元の世界へ帰すことへの想いを。


(かさね…………。同い年だけど、ホントによく泣くよな)


 竜伸は苦笑しながら、気力を振り絞って背中に感じるかさねの存在感を、かさねへの想いを心の奥へねじ込んだ。



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