[60]
蒼みを帯びた閃光が唸りを上げて祟り神の横を通り過ぎる。
「「「外れたぁぁぁぁ!」」」
竜伸とかさね、そして、いつの間にか現れたいちかが思わず声をあげた。
渾身の一撃をかわされた竜伸達に二の矢は無いのだ。
だが、そんな竜伸とかさねを目の前の祟り神が見逃す筈がなかった。
「かさねちゃん! 竜伸くん!!」
悲鳴にも似たいちかの声が飛んだ。
我に帰ったふたりの視界いっぱいに祟り神が迫って来る。
「かさね!!」
慌てて銃を構え直す竜伸。
しかし、
「霊力は、そんなすぐに充填できません! 時間を稼がないと!!」
「ま……マジか」
轟く蹄の音。
月明かりの中を祟り神は猛然と突っ込んで来る。
かさねは懸命に祭文を唱え続ける。
竜伸は、祟り神から狙いを外さないよう銃を構え続けた。
祟り神の背中が月明かりに蒼く光るのがはっきりと手に取るように見え、照門いっぱいにその姿を捉えている。
もう、目の前と言っていい距離だ。
「かさね、逃げろ! 俺は、銃であいつをぶん殴る!!」
「ちょ、無茶言わないで下さい、竜伸さん!」
慌てて、かさねが竜伸にすがりつく。
竜伸が腰のかさねを押さえつつ銃を逆手に持とうとしたその瞬間、
「ほおおりゃああああぁぁぁぁ!」
「きええええぇぇぇい!」
かわいらしい&気合いの入った雄叫びの合唱とともに飛び出してきた比売神さまといちかの蹴りが祟り神の脇腹にめり込み、祟り神がもんどり打って転がった。
引き裂くような悲鳴とも、雄叫びともつかない絶叫とともに木々がなぎ倒されて行く。
比売神さまが振り返って短く叫んだ。
「かさね、『闇鎮歌』じゃ!」
「は、はい!」
比売神さまの言葉に何かひらめくものがあったのか、かさねは返事をするのももどかしく素早く祭文を唱え始めると、唱えつつ竜伸の目を片方の手で覆った。
一方の比売神さまは、雄叫びをあげながら祟り神が転がって行った方へと突撃して行き、それを援護するためかいちかも森の中へと跳び込んで行く。
黒々と闇の中に佇む森に再び比売神さまと祟り神の雄叫びと絶叫が交差する中、祭文を唱え終わったかさねが最後に叫ぶ。
「闇鎮歌!」
かさねを中心に光が渦を巻き、そして、花弁が一斉に散るかのように弾けた。
燦然と輝く光の華が、全ての闇を蹂躙する。
ぐぎゃああぁぁぁぁぁ!!!
炸裂する光の嵐の中で、祟り神が悲鳴を上げてのたうちまわり
「ぴぎゃぁぁぁぁ! しまったぁぁぁぁ!!」
と、かわいらしい声の絶叫も響き渡る中、かさねが竜伸の肩を叩いた。
「竜伸さん!!」
叫ぶが早いかかさねが再び竜伸の背中に霊力を、ありったけの力で注ぎ込む。
銃に蒼い光が満ちて行く。
竜伸は、再び銃を構えた。




