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夕日の国のファンタジア  作者: 生田英作
第1部
6/358

[6]


 竜伸は、思わず身震いした。

 おかしいのは、それだけではない事に気が付いたからだ。

 微かに聞こえる明らかに風の音とは異なる音。

 何かが近づいてくるような地響きと唸り声。

 竜伸はゆっくりとあたりを見渡した。

 畑、畑、その先も畑、走って来る少女、畑、畑――走って来る少女……


 …………走って来る少女!


 着物姿の金髪の少女が畑の向う側から竜伸のいる方向に向かって走って来る。

 後ろに、小型のトラック程はあろうかという巨大なイノシシを引き連れて!


「逃げて下さい! 速く!」


 金髪の少女が叫んだ。

 淡い水色の着物に濃い紫色の袴。足元のブーツがにんじんの葉をかき分け懸命に走る。

 ショートボブのその髪と整った顔立ちは外国人のようでありつつもどこか日本人の雰囲気を感じさせる。 

 所謂ハーフというやつなのだろう。しかも中々の美少女だ。

 その美少女が竜伸に逃げるよう再度叫んだ。

 竜伸はぼんやりとそのシュールな光景を眺めてつつ心の中で呟いた。


(逃げる……か)


 そんな選択肢もあるんだなと初めて気付いたかのような、風に溶けてしまいそうな程のささやかな呟き。

 否、竜伸とて逃げるべきだろうとは思う。

 自分一人が追い掛けられているのであれば。

 しかし、今追い掛けられているのはその少女の方だ。

 竜伸はカバンを道の脇に放り投げると、その場で二、三度足踏みをして、靴紐がほどけていないか確かめる。


(俺がやるしかねえだろう!)


 竜伸は少女の方へ走り出した。


「来ちゃダメ! 来ないで下さい!!」


 少女が走りながら叫ぶ。

 だが、そうしている間にも少女とイノシシの距離は、どんどん縮まっている。

 何か、イノシシの気を引きつけられる物があれば……。


(こちらに気を引きつけて、その隙にあの子を……)


 走りつつ足元に落ちていたこぶし大の石を拾う。

 二つ……

 もう少しあればと思ったが致し方もない。

 竜伸は、一端立ち止まり、手の中の石をイノシシに向かって投げつけた。

 だが――

 一つ目の石は、大きく目標を外れ明後日の方向に飛んで行った。

 イノシシは竜伸には目も呉れない。

 しかも、よく見ると竜伸のいる場所を避けるように少女が走る方向を変更したことでイノシシと少女の距離がさらに縮まっていた。


(何やってんだよっ!! 人の事より自分の事を考えろよ! 巻き込みたくないからって、無茶だろう!)


 思わず体に力が入り、奥歯を噛み締める。

 少女は、見ず知らずの竜伸を巻き込みたくない一心で迷うことなくリスクを冒したのだ。

 その事実が竜伸を奮い立たせた。



(俺は……俺は絶対にあの子を助けたい! いや、助けなきゃいけない!!)


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