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「――――という作戦じゃ。名案じゃろ?」
得意げな比売神さまに竜伸とかさね、そしていちかの三人は、うんうんと首肯する。
「確認ですけど、比売神さまが追い込んで俺が仕留める。で、いいんですよね?」
「うむ。その通りじゃ。最後の仕留める、鎮めるという行為をそなたがやらんと意味がない。じゃから、タイミングが肝心じゃ。かさね?」
「はい、任せて下さい!」
「で、いちか、そなたは見届け役じゃったのう?」
「はい。そのつもりですけど……」
ごにょごにょ、といちかが言いにくそうに口の中で呟いた。
月明かりのせいか、辺りは仄かに明るく、ぼんやりとではあるが互いの表情も見えた。
比売神さまは、クスリと小さく笑って、皆の顔を順に見る。
無言の問い掛けに皆が頷いた。
準備は、万端だ。
よし、と息を吐いて四人は立ち上がった。
「では、竜伸、かさね、打ち合わせ通りそこの枯れ沢に隠れておるんじゃぞ。見つからぬよう気を付けてな」
比売神さまの言葉にかさねが大ぶりの木の枝を振って見せる。かさねは、この拾った木の枝でカムフラージュするつもりらしい。
比売神さまは、かさねに向かって頷くと鬱蒼と茂る木陰の下、月明かりの届かない暗闇の中に溶けるように消えて行った。
比売神さまを見送って、竜伸とかさねのふたりは近辺の木の枝を適当に折ったり拾ったりして藪の中に突き刺し、なにやら小屋めいたものを造ると、早速その中に隠れる事にした。
その一方でいちかの方はと言うと、竜伸達を見張っていた時同様に方術でその姿をくらませたらしい。
静まりかえった森の中で三人は、ひっそりとその時を待った。
本当に静かだった。
いちかは、姿どころか音も消せるのか完全に気配が消えており、隣にいるかさねの息遣いや衣擦れの音だけが時折そっと竜伸の耳朶を打つ。
闇夜の森の中でかさねとふたりきり。
何とも気まずい感じではある。
「かさね――」
堪りかねてそっと小声で話し掛けた竜伸に、しっ、と指を立てて竜伸の口を封じつつ、それでもかさねはふんわりとした笑みを浮かべてくれた。
そして、竜伸を制したまま――隣からその背後に回り込むとその頭をそっと竜伸の背中に埋めた。かさねの温もりが、息遣いが背中越しに伝わり竜伸の心拍数は一気に上がる。
ぎこちなく振り返った竜伸にかさねは、甘えるような小さな囁きで応じた。
「準備です。竜伸さんも銃を構えて下さい。いつでも撃てるように」
「お……おう…………」
竜伸は慌てて銃を構えた。
構えた銃口が胸の鼓動に合わせて揺れているのが見える。そんな竜伸にかさねは、竜伸の背中をさすりながら囁くような小さな声で続けた。
「ゆっくり息をして下さい。私に合わせて」
かさねがゆっくりと呼吸してみせる。
竜伸はまるで子供のような従純さでかさねに従った。
ふたりの呼吸する音だけがしばし闇の中を支配する。竜伸の息が納まって来た頃合いを見てかさねは、その背中をさすっていた手をそっと名残り惜しげに離すと
「!」
竜伸を背中から抱き締めた。




