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しばらくそうして運河を見つめてから、かさねは竜伸に向き直り
「いきなりですけど竜伸さん、ここで質問です。『現世の国』と『黄泉の国』この二つの世界は全くと言っていいほど違う世界ですけど、一つだけ同じ物があるんです。竜伸さんはなんだと思いますか?」
と、尋ねた。
竜伸は、本当にいきなりの事に少々面食らいながらもかさねの質問を考えてみた。
そんな竜伸をかさねは少し傾け気味の顔を仄かに赤らめながら見つめている。
しばらく考えてから、竜伸は両手を上げて降参した。
「それは……太陽。この二つの世界は同じ一つの太陽の下にあるんです。
――竜伸さんのご家族も今頃あの夕陽の下のどこかにいらっしゃる筈です。
竜伸さんと同じように、今、あの夕陽を眺めているかも知れません。だから、だから――――」
かさねの両の手が、きゅっ、と閉じられた。
かさねの瞳は、遠くを見るように一点を、空の彼方を見つめていた。
「――私達、これまでお互いの事を知らない時からずっと、同じ太陽を見ながら生きて来たんですよ。
同じの太陽の下のどこかで……竜伸さんが生まれて、私が生まれて、笑ったり、泣いたり……。
そう、そうなんです。そうなんです……。
そして、これからも私達、互いに離れていても同じ太陽の下にいるんです。
今までがそうだったみたいに…………」
「かさね、その言い方だと、まるで……まるで、二度と逢えなくなるみたいじゃないか。
俺が祟り神を鎮めて元の世界に帰っても、かさね、言ってただろ、比売神さまとよく俺たちの世界に、『現世の国』に行くんです、って。
だったら、また、どこかで逢えるんだろ? なあ?」
空の一点を見つめたままのかさねの瞳から涙が一筋頬を伝った。閉じられた唇が震えていた。
かさねが懸命に堪えているのだと分かった。泣くまい、と。
それが、竜伸の発した問いへの無言の答えだった。
「逢えない…………のか俺達。もう逢えないんだな、祟り神を鎮めて元の世界に帰ったら……二度と……」
かさねは、ゆっくりと竜伸に視線を戻した。
そっと頬を拭って何事もなかったかのように。
そして、言葉を紡ぐ。
それが、『日女の乙女』である彼女の仕事であるかのように。
全くの事務的連絡なのですよ、とでも言うかのように。
微かに震える声で竜伸に向って言った。
「通常……通常でしたら、私達『日女の乙女』は、神さまが連れてきた他の世界の人を助けるような事はしていません。今回の竜伸さんは、本当に例外なんです。
乙女である私を助けてくれたから。
乙女である私のしくじりのせいでこの世界に連れて来てしまったから……。
だから、例外的に認められたんです」
「そ、そんな……」
「だから――――竜伸さんを元の世界に戻したら、もう二度と接触してはいけないって」
「だ、誰がそんな事言ってんだよ! だいたい、かさねの気持ちはどうなんだよ? 俺の事キライなのか? 俺は、俺は……かさねに逢いたいよ!」
「私…………。私は……私は『日女の乙女』です。乙女である以上その決まりごとは守らなきゃいけません。それに、それが、私が、私達が竜伸さんを助けるための条件なんです」
「条件?」
「はい、元の世界に戻して二度と接触しない。それが、竜伸さんを手助けする上で私達に課せられた条件なんです」
「つまり、その『条件』を守るから、守ると約束してるから今まで俺の事を?」
かさねが力なく頷いた。
「もし、もし、守らなかったらどうなるんだ? 第一、さっきも言ったけど誰がそんな事言ってんだ? なんで、そんな事を?」
「それは……」
「かさねちゃん、もういいよ。ごめんね、辛い役目を押し付けて」




