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夕日の国のファンタジア  作者: 生田英作
第1部
42/358

[42]



 顔を見合わせ思わず赤面する竜伸とかさねに比売神さまは、そっと肩を竦めると構わず話を続けた。


「金色堂は、今宵は臨時休業……さくやも藤丸もおらぬぞ」


「「えぇぇぇぇー!」」


「なんという声を出しとるんじゃふたりとも。

 実は、『例会』の方でまた臨時の会議があるという話での。

 竜伸の事があるゆえ、あまり行きたくは無かったんじゃろうが……」


「そうですか……。竜伸さんの案件に専任だと思ってたんですけどね」


 はあっ、とため息をつくかさねを横目で眺めつつ竜伸は比売神さまに話の先を促す。


「での最初は藤丸がおれば、かさねとやよい、それにみくもで四人。わらわや竜伸も入れれば六人じゃ。何とかなるじゃろう、と言うておったんじゃが……」


「藤丸さんに何か?」


「ふふふ……そう、慌てるでない。そんなに腹が空いておったのか、竜伸? 

 で、話を戻すが、藤丸と同郷の友人とやらが食あたりだか何だかで病院に担ぎ込まれたと電報が来てのう。なんでもここいらには、藤丸以外に頼りになる者がおらぬと言う話でな。気の毒に藤丸めは取る物も取り敢えず慌てて出ていったんじゃ。

 と、言う訳で今宵の金色堂は料理が出せん。女将もおらぬ。これはもう、休みにする他なかろう?」


 比売神さまがどうじゃとふたりの顔を覘き込んだ。

 竜伸は頷いて、かさねを見る。

 かさねも肩を竦めて頷いた。


「まあ、と言う訳でな。やよいはみくもを連れて映画(キネマ)へ行くと言うておったから、そなたらも好きにするとよい。

 竜伸、そなたはこんな時にと思うかもしれぬが、こんな時じゃからこそじゃ。余裕は大事ぞ。

 それに何もせずに知らせをただ待つというのも辛いじゃろう? 

 それに、なんじゃったら、かさね、そなた竜伸と街で食事をして来るとよい。夕食には少し早いかもしれぬが、いつ祟り神が見つかるか分からぬからのう。

 万一、祟り神が見つかるようならばすぐ連絡するゆえ、それまでは、ゆっくりと……ああ、そうじゃ!」


 なにやら思い出したらしく比売神さまは、スカートのポケットをがさごそとまさぐり、ありゃ、どこじゃったかのう、と何やら探し始めた。

 やがて、


「あった!」


 じゃーん、とかさねの前に封筒を突き出した。


「出掛けにさくやから頼まれての。今回の依頼料じゃ。ほれ、大切にな」


「うれしい! ありがとうございます!」


「うむ。持って来た甲斐があったのう。さくやも喜ぶじゃろう。それで……」


 比売神さまは、もう一通封筒を持っていた。


「ほりゃ、竜伸、そなたの分じゃ」


「え? 俺もですか?」


「そうじゃ。当然じゃろう、そなたの銃で祓ったのじゃから。それに今回は鉄砲撃ちと乙女の二人で鎮めに行くという取り決めで金をもらっておるそうじゃ。

 もっとも、鉄砲撃ちを付けると言う話は、あまりにも突然の申し出ゆえ先方も当惑したらしいがのう……じゃが依頼主も納得しておるという事の様じゃし……見てみよ」


 比売神さまが屋根の向うに見える地上の小さな人影を指差した。メイドさん、庭師と思しき半纏を羽織った人などの使用人の群れの中央にいる体格のよい背広姿の男性がその『依頼主』のようだ。皆で竜伸達が鎮める様子を見物していたらしい。

 もっとも、『依頼主』は払った金相応の働きをふたりがちゃんとするよう見張っていただけなのかも知れない。あれは、そんな感じだなと竜伸は一人胸の内で頷いた。


「比売神さま、じゃあ、これもらいます」


「うむ、それがよい」


 にっこりと比売神さまが微笑んだ。

 比売神さまの小さな手の中でいやに大きく見えた封筒だが、実際に手にするとそれほど大きな訳でもなかった。だが、紙幣数枚と硬貨と思しき物が中でガサガサ動く感覚は、実際の大きさや厚みと関係なしになんだかとても頼もしい。


(生まれて始めてお金を稼いだのが、よその世界とはな…………)


 感慨もひとしおと言った感じの竜伸にかさねが微笑んだ。



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