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「あのう……取り込み中すまんのじゃが――――」
「「比売神さま!」」
頬を赤らめた小さな女神さまがふたりの脇にちょこんと立っていた。
慌てて、互いに距離を取るふたり。
かさねがコホンと咳払いをして澄ました顔で比売神さまに言葉の続きを促した。
「あー、その、なんじゃ……。竜伸、まずはよかったのう。見事じゃった。ぶっつけ本番で祟り神はきついじゃろう、という訳でかさねの仕事を手伝わせたわけじゃが正解だったようじゃのう。あとは祟り神を探すばかりなんじゃが……」
「何か連絡が?」
「いや、乙女達からも神々からも特に無いんじゃ……。依り代である竜伸がここにおるゆえ、そう遠くまでは行かれん筈なんじゃがのう。まあ、そなたら乙女とわらわの式神たちも総動員しておるゆえ時間の問題とは思う。まあ、焦らずに待つしかないということなんじゃが……」
そう言いながら、比売神さまは忌々しそうに空を睨む。空は、地上にいる者たちの思いとは無関係に
どこまでも晴れ渡って、青く、蒼く地上を覆っている。
慌てたようにかさねが明るい声を出した。
「でも、すぐに祓い屋さんや宮司さん達に連絡しておいて正解でしたね。もし、他の人達が事情を知らずに鎮めてしまったら困りますもんね。比売神さまも神さま達に連絡してくれましたし……」
「うむ。他の者達に下手に鎮められたらどうにもならぬ。竜伸を帰すどころの話では無くなってしまうからのう」
「それって、もしかして下手に鎮めると俺の中に祟り神が逃げ込むっていうやつですか?」
「ええ、だから女将さんと比売神さまが方々に連絡してくれたんです。イノシシの姿をした手負いの祟り神を見かけたら鎮めないで私達のいる街の方角へ追い払って下さい、って。それと、見かけた事を私達に知らせてほしいって伝えてあるんです」
「と、言う訳じゃ竜伸。まだ結果こそ出てはおらぬが、打つべき手は全て打ってある。じゃから、辛いと思うが、もう少しの辛抱じゃ」
比売神さまがそのかわいらしい瞳を片方竜伸につぶってみせる。かさねもうんうんと頷いた。
「ええ、ここまで来たら慌ててもしょうがないです。まあ、長ければ、あと半日かな? ある訳だし……」
「そうですよ。まずは金色堂へ戻って英気を養いましょう! 話はそれからです。お腹も空きましたしね」
「じゃあ、金色堂に戻って……って、早く戻って手伝った方がいいよな。やっぱ混むんだろ? 昨日の夜も結構混んでたし」
「うーん……今日は水曜日だから、そうでも無いかも。ところで竜伸さん、もし、夕方までに祟り神が見つからなかったら、今夜の夕食がこの世界での最後の食事になりますけど……何か食べたいものありますか? 藤丸さん、リクエストすると作ってくれるんですよ。材料残ってればですけど」
「マジか! そうだな…………えーと……あー、いっぱいあり過ぎて決められねえ!」
「今日は、竜伸さんが主役ですから、竜伸さんの好きな物頼んで下さいね」
あれこれと楽しい想像に胸を躍らせるふたり。そんなふたりを見つめ、比売神さまはやれやれとわざとらしく溜息を漏らした。
「あー、度々ですまんのじゃがわらわの話には続きがあっての――」




