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夕日の国のファンタジア  作者: 生田英作
第1部
34/358

[34]


 銃の重みを手の中に感じつつ竜伸は考える。

 感じるか? と問われれば感じるような気がするし、そうでない気も多分にする。

 金属の香りが仄かに竜伸の鼻孔をくすぐった。


「その銃はミニエーと申す銃にございます。他の銃も試してみましょう」


 二つ目、三つ目と銃を試して行く。

 そのたびに竜伸は初めて持った銃と言う物――命を奪う事を目的に造られた道具――の存在意義に思いを馳せずにはいられない。対象となった者の運命が引き金の上の指ひとつに懸っているというのはいかほどのものなのだろうか。

 殺すのではない、鎮めるのじゃ、と比売神さまは言っていた。

 しかし、いくら祟り神を殺す訳ではないと言っても自分は引き金を引けるだろうか?

 引き金の引いた後の事は、引く前には戻せない――――。

 だが三つ目に渡された銃の重みが、そんな竜伸の思いを現実に引き戻す。

 遠くで聞こえていた金村比古神の声が急に近くに感じられた。


「その銃は、モシンナガンと申しまして……ああ、先ほどの二つ目の銃でございますか? あれはモーゼルと申すもので……」


 金村比古神は、彼にとって異世界の銃であるにも関わらずその来歴等を実によく知っていた。

 性能は言うに及ばす、造られた当時の時代背景、実際に使用した兵士達からの評価と言った物まで詳しく把握している。

 三つめに渡した銃の異世界(あくまで彼にとって)の戦場におけるエピソードを話しながら、竜伸の様子を観察していた金村比古神は「うーむ」と首を捻って四つ目の銃を手に取った。

 比売神さまの持っていた銃の中に竜伸に合う物は無かったと言う事だ。

 次は敷島屋が所蔵する銃。泣いても笑ってもこれが最後だ。

 金村比古神が確認するように比売神さまの顔を見ると比売神さまもあくまでものは試しと言った表情で竜伸を見つめつつ頷いてみせる。

 金村比古神は三つ目の銃を竜伸から受け取り四つ目の銃を代わりに手渡した。

 それはなんと言う事はない、先ほどの三丁の銃と同じ様な銃だった。

 だが……。


「ほほう……」


 金村比古神が唸ると、比売神さまも、つられてかさねまでもが感嘆の声を漏らした。

 その銃はまるでそのために造られたかのように竜伸の手に馴染んでいた。

 その事が傍から見てもはっきり分かるほどに。

 先の三つよりも心なしかくすんだ銃床。

 その形態も取りたてて特別な所は何もない。

 だが、その銃は竜伸の手を、心を捉えたかのように離れない、離れようとしない、否、離す事ができない。


(これが……)


 竜伸の目に浮かぶ歓喜を敏感に感じ取ったのか銃がにわかに白い光に包まれた。

 金村比古神と比売神さまが顔を見合わせ微笑んだ。


「竜伸さん、あなた様はその銃に選ばれたのでございますよ」


「……この銃の名前は?」


 震える声で尋ねる竜伸に金村比古神は誇らしげに応えた。


「三八式歩兵銃。あなた様の世界のあなた様の故郷(くに)の銃でございますよ」


 ドクンッ――

 竜伸がその手の中で感じた一瞬の鼓動は決して気のせいでは無いだろう。

 三八式歩兵銃は何かを語り掛けるかのように竜伸の顔を見つめていた。

 竜伸は皆の顔を見つめた。

 金村比古神が、比売神さまが、かさねが一様に頷いた。


「その銃こそがそなたの銃じゃ。よかったのう、竜伸」


 比売神さまの声も心なしか震えているようだった。

 竜伸は、大きく息を吐くとそっと、銃を机の上に下ろした。

 ゴトリと小さな音が響く。

 三八式歩兵銃は主人の傍に控える忠実な番犬のような緊張感を湛えつつ机の上に鎮まっていた。

 黒い銃身、そして少々くすみがちながらもよく磨き込まれた銃床をそっとなでて竜伸は呟く。


(よろしくな、相棒)


 そんな竜伸の心情に応えるかのように三八式歩兵銃はその銃身に淡い輝きを湛えていた。



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