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夕日の国のファンタジア  作者: 生田英作
第1部
33/358

[33]



「道具と言うのはのう、竜伸。人や神々がそうである様にみな心を持っておる。

 それは、一様ではなく道具一つにつき一つ。

 同じように見える道具であってもまるで別人のそれなんじゃ。

 わらわ達が、銃を選ぶと言う事はひとえに使う者の――わらわ達の――目的や想いをその銃がどれだけ理解してくれるか調べると言う事じゃ。

 そして、銃に自身の持ち主としてわらわ達を受け入れてもらえるかを試すということに他ならぬ」


「それは、具体的には、どうやって調べるんです? フィーリング……とか?」


「うむ、まあ、そんな感じかのう。その銃にそなたが触れた時、そなたが感じたことから判断するんじゃ。まあ、何度かやっておる内に自ずと感じが掴めるようになるゆえ案ずることはない」


それにしてもと、かさねが小さく首を傾げる。


「比売神さまは、神器もたしか銃でしたよね。もしかして、神器もここに?」


「ああ、移したのは割と最近じゃがな。で、竜伸には、これも聞き慣れぬ事じゃろうから簡単に説明しておこうかのう。

『神器』とは、神のみが使う特別な道具の事でわらわのこの場合はかさねが言うた通り銃じゃ。

 わらわは元々、弓を神器として持っておったんじゃが一番よいと思った銃を神器にまで鍛えて、弓の方は大分前に手放してしもうたんじゃ。

 今の神器は、出し惜しみする訳ではないのじゃが、ここ一番と言う時にのみ使っておってのう。それ以外の時は、他の銃同様ここの蔵で保管してもらっておる」


「よろしければ、御神器も蔵から出して参りますが? おふたりに見せて差し上げてはいかがでございましょう?」


 三人のやり取りを脇で聞いていた金村比古神の提案に比売神さまは、「そうじゃのう、それはよい」と頷いた。すかさず、金村比古神が後ろへ振り返って指示を出した。指示を受けた三人目の前掛けをした男の子もいつの間にかそこに立っていたらしい。やはり「はーい」と返事を残して奥へと消えて行く。

 それにしても、と男の子の遠ざかる背中を見つつ竜伸は思う。

 誰もいないのかと思えば必要な時にひとりでに店員さんが現れる。どう考えても不思議だと思うのだが、金村比古神も比売神さまも別段、変わった様子は無い。


 どうやら、神々相手の店とはこういうものであるらしい。


 ちなみに、かさねはと見るとそのぱっちりとした瞳をきらきらさせて微笑んでいる。

 かさねは、もの問いたげな竜伸にそっと肩を寄せると「あの男の子達は式神です」と教えてくれた。

 しばらく皆で待っていると、前掛けの男の子達は三人同時に戻って来た。

 それぞれ両手に長い包みを抱えている。

 彼らを待っている間にスペースを開けておいた例のマホガニーの机の上にゴトリと置かれた五つの包み。金村比古神は神器の物だという包みを脇にどけると、ゆっくりと他の包みを解いてゆく。

 広げられた包みの上に四丁の小銃が姿を現した。


「はて? わらわの銃は三つじゃが……」


「私どもでも一丁だけ現世の国の銃を持っておりましたので出して参りました。選択肢は多いにこした事はございません」


「よいのか?」


「なあに、構いません。小宮浜比売神さまとは長いお付き合いでございますから」


 机の上に銃を均等に並べつつ金村比古神は心底嬉しそうに笑った。

 物言わぬ銃達が二柱の神と二人の人間を見つめている。

 鈍く光る銃身と磨き上げられた銃床。ほの暗い店内の中で放つその異様なまでの存在感は、比売神さまが言うようにまるで生きているかの様だ。

 金村比古神は慣れた手つきで一丁の銃を手に取った。銃は職人でもある神の手の中でガチャ、ガチャンと小気味よい音を立てる。金村比古神は同じ様に残り三丁の小銃も手に取って状態を確認すると竜伸に一丁の銃を持たせた。


「いかがでございますか?」


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