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そして、店に入ってだいぶ時間も経っているので、と三人は本題に入る事にした。
三人を代表して比売神さまが、昨日の事を話し始める。
事の次第を語る比売神さまに金村比古神は何度も頷きながら耳を傾けた。
「ははあ……なるほど、竜伸さんは現世の国のお方ですから、黄泉の国の銃は馴染まないだろうと。確かに、それはありますでしょうな。それで、小宮浜比売神さまの出番と言うわけでございますね」
「うむ、この店の蔵に預けてあるわらわの銃のコレクションの中にいくつか現世の国の銃もあったのを思い出してのう。やはり、相性が悪いとまずいであろう。命を預ける物ゆえゆめゆめ怠れぬ」
金村比古神は「ごもっともでございますな」と強く頷くとやおら後ろを振り返った。
いつの間に現れたのか、前掛けをした男の子が二人ちょこんと控えていた。
金村比古神は机の上に手を伸ばし帳簿のページを手繰って何かを確認するとてきぱきと男の子達に指示を出した。指示された二人は「はーい」と一つ返事で店の奥へと消えて行く。
「今、蔵へ取りに行かせました。お預かりしている現世の国の銃は三丁でございますな」
「ちょっと、比売神さま……」
かさねが比売神さまの袖を引いた。
「どういうことなんですか?」
「いや、竜伸の銃は、やはり相性を重視せんといかぬと思うてのう。銃と心が通い合っておらねばよい仕事は出来ぬからな」
「いえ、そうじゃなくて、銃のコレクション! 銃を撃つ所は何度も見た事ありましたけど、まさかコレクションしてただなんて。しかも、私にまで内緒で」
もう、と腰に手を当ておかんむりの様子のかさねに比売神さまはにんまりと微笑んだ。
「まあ、わらわにも色々あってのう。
で、竜伸は知らぬことだろうと思うゆえ話すんじゃが、わらわ達神も鎮めや祓いに銃を使う。なにせ、上手く操れば術を繰り出すよりはるかに簡単に片が着けられるのじゃからな。使わぬ方が損と言うものじゃ。まあ、鉄砲撃ちのように魔心眼がある訳ではないゆえ一発で、とはいかぬがのう……。
じゃが、そうして使っておる内に、今より良い物がほしいと考えるようになるのは神も同じでな。それで、神同士で購ったり、もろうたり、交換したりとやっておったんじゃが、気が着いたら結構な量の銃を持っておる状態でな。
銃に限らず道具は生き物じゃ。まともに手入れが出来ねば性能――銃の健康という意味じゃ――を保てぬ。そこで、わらわは手入れを定期的にしてもらえる敷島屋の蔵に預ける事にしておっての。
蔵の賃料代わりに、他の神々らが銃を求めてやって来たら貸し出したりしてもよいという契約にしておる。もっとも、わらわの方が明らかに得をしておるがの」
応える比売神さまの視線の先では陳列された銃が鈍い光を放っている。
こうして見ると陳列されている武器に銃の割合が比較的高い。それだけ銃の需要があるのだろう。
「比売神さま、ちょっといいですか?」
「うむ。なんじゃ、竜伸」
「銃との相性ってどういう事ですか? 使いやすさとかそういう事ですか?」
竜伸の問い掛けに比売神さまはその双眸にやさしげな笑みを浮かべると、かさねは知っておるじゃろうが……と前置きして話し始めた。




