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夕日の国のファンタジア  作者: 生田英作
第1部
30/358

[30]


 中に入ると、そこはやはりというべきかどうか。

 店の中は、店の外観とはかけ離れたものだった。

 外から見た感じでは近所の八百屋さんぐらい、幅三メートルほどの間口しかない店であったのに、入ってみればそこは輪になってフォークダンスを踊れそうな程広かった。


 一見すると、そこは店と言うより博物館の展示室のようである。


 壁際一面と竜伸達を迎えるようにコの字型に並べられた展示ケース。壁際のケースの中には、ずらりと小銃、やり、刀の類が掛けてあり、コの字型に並んだ展示ケースの中ではお行儀よく整列した鏡や扇、鈴などの用具がやって来た客達を静かに見上げていた。


 全体的に控え目な照明の下で店は、奇妙に静まり返っている。


 比売神さまは二人の方に振り返ると唇の前で人差し指を立てて見せた。

 比売神さまが見ていた目線の先、展示ケースの向こう側には大きなマホガニーのデスクが鎮座しており、スポットライトのように降り注ぐ白熱灯の光の下で白髪の丸縁メガネを掛けた男が何やら恐ろしく細かい作業に没頭している。机の上には大量のネジやスプリング、そして細かな金属片が散乱していた。

 白髪の男は時折、メガネをはずし手元の部品の塊を頭上にかざしてみては首を捻り、手元で何やら微調整をしてはまたかざしてを繰り返す。

 何度か繰り返すと満足したらしく、部品の塊をそっと机の上に置いた。

 メガネをはずして目を擦り、首をぐりぐりと回して大きく伸びをする。

 体の動きに合わせて関節が音を立てると、男は「ほう」と息を吐いた。そして、机の隅にある陶製の灰皿を引き寄せると、着ていたワイシャツの胸ポケットの煙草に手を伸ばし――なにげなく顔を上げ――三人の存在に気が付いたらしい。

 びくっ、と飛び上がった。

 おお……と男はよたよたと椅子を押しのけ、積まれたボール箱を床にあちこち散乱させながら、こけつまろびつ転がる様にして三人の前に出て来て深々と頭を下げ


「申し訳ございません、大変失礼をいたしました」


 と仰々しく非礼を詫びてみせた。

 額に汗を浮かべて平謝りする男を見つめる比売神さまの顔にやさしげな笑みが浮かぶ。

 ひとしきり謝って気が済んだのかどうか、男は丸縁メガネを持ち上げ、しげしげと比売神さまの顔を見て、あっ、と息を呑んだ。


「これは、小宮浜比売神(こみやはまひめのかみ)さまではありませんか! どうも……かさねがさね相すみませぬことで。もしや、私が作業している間待っておられたのではありませんか?」


「いや、たいした時間ではないゆえ気に召されるな。それに、作業中のそなたは、男ぶりが普段のそれより二割増しほど上がっておるゆえな」


「ふふふ……また、お戯れを。で――して、本日はどのような? お預かりしている神器のメンテナンスは先日済ませたばかりにございますが……」


「いや、今日のメインはわらわではない、この二人の事で参ったのじゃ。かさね、竜伸、紹介しよう。敷島屋両替屋分店の支配人であり職人頭も兼ねておられる金村比古神(かなむらひこのかみ)どのじゃ」


 紹介を受けた金村比古神は、人の良さそうな笑みを浮かべながら丁寧に頭を下げた。


「私は、小宮浜比売神さまの『お守』を務めさせて頂いております『野乃崎のかさね』と申します。お目にかかれて光栄に存じます」


 対するふたりは、まず、かさねがぎこちなく頭を下げた。

 そのやり取りを眺めていた竜伸もそれに倣ってさっそく自己紹介をする。


「えっと、その、俺は、いや僕は神代竜伸(たつのぶ)と申します。ええと、その……何と言えばいいか……」


「あの、失礼ではございますが、あなた様は『鉄砲撃ち』のリュウシンさんではありませんか?」



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