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夕日の国のファンタジア  作者: 生田英作
第1部
3/358

[3]


「げっ……こんな時間かよ」


 神代竜伸(かみしろたつのぶ)は、降り切った階段の下でうんざりと言った表情でぼやくと、濃紺色の学制服のボタンを上から順に外しつつ大きなため息を吐く。

 目の前にある保健室の時計が午後五時三十分を指しているのがドアの窓ガラス越しに見て取れる。 

 保健室の右隣。

 いつも薄暗い昇降口はしんと静まり返って、人の姿は当然無い。

 そもそも、昇降口全体を覆うこの中途半端な明るさの「薄暗い」というのが、まことにもって甚だよろしくない。中途半端に物が見える分、想像力が掻き立てられるというか、ひょっとすると何も見えない暗闇よりもそういう意味ではタチが悪いかもしれない。

 だから、つい、下駄箱の陰から髪の長い青白い少女が目の前に現れたら……などと思ってしまう。

 実際、さっきから何か居そうな気がしてしょうがない。


(…………怖すぎだろう、この昇降口)


 竜伸は、恐る恐る昇降口に這入ると下駄箱の中からそそくさと靴を取り出す。

 と――



 ――あれ?



 ふと、気になって竜伸は顔を上げた。

 冗談でなく割とリアルに誰かがこちらを見ているような気がしたのだ。

 人気のない校舎を吹き抜ける風の音に思わず身震いする。


(リ、リアル学校の怪談ですか…………じょ、冗談は、よし子さん!)


 こういう時のお約束は『振り返ると――』というやつだろう。

 振り返ればおばけ(ヤツ)がいる。

 定番中の定番、ベタの中のベタ。

 ザ・キング・オブ・ベタと言っても過言ではない。

 となれば――


(俺は振り返らねえ!)


 予想外だろ、ざまあ見やがれ! などと顔を引きつらせて呟きつつ、大急ぎで靴を履き、転げるようにして昇降口の外へ。

 わき目も振らずひたすら歩く。

 急ぎ足、超急ぎ足。

 走るのではない、歩くのだ。

 走ってしまったら、おばけ相手に『負け』を認めるようなもの。

 だから、決して走らない。


(でも、俺は急ぐ! だって、おばけ怖いもん!!)


 昇降口を潜り抜け、校舎の外へ出ても竜伸の足は止まらない。

 だが、超特急で通り過ぎようとした昇降口の隣、グランドへと続くピロティの柱。

 その陰から……




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