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竜伸の質問に比売神さまは、うっすらと怪しい笑みを浮かべた。
まるで、その質問を待っていたかのようだ。
「さあて、何かのう……あるような、ないような」
くくく、と低く笑う比売神さま。
若干表情の引きつる竜伸をあざ笑うかのように比売神さまは続けた。
「今のこの姿もさることながら、わらわは何にでも化けられるのじゃ。竜伸、そなたが望むのであれば、かさねぐらいの歳の女子に化けるのとて造作もない。どうじゃ? わらわの乙女姿、見たいであろう?」
本気なのかどうか真意を測りかねる。
だが、その扇情的なまなざしは、竜伸の目を捉えて離さない。不覚にも、胸が高鳴った。
なおも、比売神さまが畳みかけるように口を開きかけると――――
「比売神さまの本性は『童女』です。比売神さまは、いつも本性のままですよ」
かさねの刺すようなまなざしが比売神さまを貫いた。
そそり立つ金剛力士像のようなその威圧感に比売神さまもビクッと体を竦ませる。
「……うにゅ、冗談、冗談じゃ。そんなに怒らんでも…………」
「何言ってるんです? 怒ってなんかいませんよ。悪ふざけもほどほどにして下さいね」
灼熱の地獄も凍りつくかと思えるかさねの微笑みが辺りを一閃する。
凍りつく比売神さまを尻目に、それで、とかさねは何事も無かったかのように竜伸に向き直り、さらに詳しく教えてくれた。
「黄泉の国の神さまは、本性でいる事が多いですよ。人外の本性の神さまは、街に行く時は、みんなを驚かせないように人の形に化けてますけど。だから、現世の国の神さまが黄泉の国に遊びに来るとみなさん驚くんです。『本性で外を歩いてるの!』って」
「あれはそこいら辺を上手く説明するための、わらわ一流のサービスじゃったんじゃ…………」
なんとか凍結状態から脱した比売神さまは、ぶぅ、とかわいらしい頬を膨らませて床板をカツーンと蹴った。
かさねは、そんな比売神さまに顔を近づけると、その澄んだ瞳に精一杯のいじわるな光を湛えて声を潜めてそっと囁いた。
「なには、ともあれ……竜伸さんにああいう事をするのは厳禁です。次やったらお尻を叩きます。私は、本気ですっ!」
「うにゃぁぁぁぁぁぁ!」
かさねの言葉に真っ赤な顔で苦悶する比売神さま。
対するかさねも顔を仄かに赤らめて、比売神さまが悪いんだからね……ぶつぶつ、となにやら言いにくそうに呟く。
もっとも、かさねと比売神さまのひそひそ話は竜伸の耳には届いてはいない。
竜伸に背を向けてなにやら話し込み始めた二人に訳が分からず苦笑を浮かべていた竜伸が視線を感じて辺りを見回すと、例のカエルが慌てて視線を反らしたのだった。




