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目の前に広がるのは、扉からまっすぐに伸びる細長いホール。
ホールには並走するように真鍮製の柵の付いたカウンターが両脇に連なり、天井を支える太い白大理石の円柱がカウンターの前をホールの先まで列をなして並んでいた。
恐ろしく高い位置に見える天井は一面のガラス張りで、格子状に張り巡らされた窓枠のまわりを唐草模様や神獣を象った装飾が覆っており、ガラス越しに降り注ぐやわらかな光に照らされた階下のロビーでは、人獣等の雑多な姿の神々たちがのんびりと豪奢なソファに腰掛けて順番を待っている。
時折、名前を呼ばれたのか、のんびりと、あるいは、いそいそ立ち上がってカウンターに向う神や、待ちくたびれたのか居眠りをする神の姿もちらほら見えた。
比売神さまを先頭に三人は、そんな店内へと進んで行く。
店内は、到って静かだ。
むしろ、静かすぎると言ってもいい。
神々を呼び出す声以外で唯一聞こえるのは、カウンターの向うの空間から聞こえて来るスタンプを押す『ドンッ』と言う音と『カタカタカタ……チン!』と唸りを上げる機械と思しき稼働音のみ。
鏡のように磨き上げられた床石の上を三人の靴音だけが響いていた。
そして――
『神獣の御連込みは、御遠慮下さりませ 両替屋』
と墨で黒々と書かれた注意書きと
『悩める貴方様ヘ朗報!
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と、言ったレトロなデザインの各種ポスターが貼られた柱の前まで来ると、前に立っていた黒いチョッキ姿のカエルが三人に向かって深々と頭を下げた。
「いらっしゃりませ。よい日和にござりまする」
詩でも吟じるような朗々とした声がホールに響く。
(…………はい? カエルが服を着てる?)
カエルの顔から目が離せなくなっている竜伸の袖を慌ててかさねが引っ張り、そんなふたりのやり取りに比売神さまはクスリと笑った。
「やはり珍しいかのう、竜伸」
「そりゃあ、初めて見ましたから」
「両替屋の職員は、位は低いがみな神じゃ。あの者ももちろんそうじゃ。
そして、あの姿があの者の本性なのじゃ。
人外の本性をさらす神々は街中にもおる事はおるが数が少ない故な、珍しかったかもしれん」
解説してくれつつ比売神さまは、うーんと伸びをした。
居心地がいいらしい。
そんな比売神さまの横顔を眺めつつ竜伸の胸にある疑問が浮かぶ。
「聞いていいのか分かりませんけど……比売神さまにも本性ってあるんですか?」




