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「はい、ここです」
どことなく嬉しそうにかさねが竜伸の問いに頷く。
竜伸の反応が予想通りだったのだろう。
かさねの隣の比売神さまもなんだか楽しげだ。
キツネにつままれたような表情の竜伸に比売神さまは言った。
「意外すぎたかの? 実はそなたが思う通り両替屋は別の場所にある。じゃが、いかんせん遠いでな。電車をいくつも乗り継ぎして行かねばならぬ。
わらわや乙女は『隔鎮歌』を使えるゆえ困りもせぬが――」
「かくじんか?」
「ああ、すまぬ。この言い方では、そなたには分かる筈がないのう。まあ、そなたらの世界の言葉で言えば……ええと……なんじゃろうな、かさね?」
「『瞬間移動』……ですかね?」
「うむ、そうじゃ、それじゃ! での、その『瞬間移動』なんじゃが、使えぬ神々が結構多いでのう。
それゆえこんな風に街ごとに決まった入口が設けられておるんじゃ。では、入ろうかの」
そう言うと、比売神さまはなにやら呪文を口の中で呟いた。
そして、壁を何度か人指し指で突く。
と、小さな指が離れた瞬間、ふっ、と目の前の空間が歪んだかと思うと――――
両開きの扉がまるでそこに最初から存在していたかのような自然さで現れた。
現れたのは、すりガラスがはめ込まれた両開きの木製の扉。
ガラスの表面には、金色の文字で『御両替』とある。
扉は三人が歩み寄ると、内側に向かって音も無く開いた。
開いた扉の内側は、小さな部屋になっており、内部は特に装飾も調度品の類も無くがらんとしていて薄暗い。
中に入ると部屋の先にさらに両開きの扉が待っていた。
「この扉の先が両替屋です」
かさねが竜伸の耳元にそっと囁いた。
三人の前に現れたのは青銅製の重厚な扉。
神々と動物のレリーフの彫られたその表面からは、何とも言えない冷気が漂っている。
「ふふふ。すまぬのう、竜伸」
内心を見透かしたかのような比売神さまの言葉を聞き流しつつ竜伸は、おずおずと扉を押し開いた。
と――
そこは、とてつもない空間だった。




