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かさねは、「おー、ミステイク!」と自分のこめかみをげんこつでかわいらしくコツンと軽く小突いて、片方の目をきゅっとつぶってみせた。
「両替屋さんは、比売神さまみたいな世界を行き来する神さま達のためにそれぞれの世界のお金に両替してくれたり、神さま相手の銀行みたいな仕事をしている所です。人間の銀行と区別するためにそう呼ばれているんです」
「で、今日は、そこに何をしに行くんだ?」
「ああ、それは――」
「銃じゃ」
と、比売神さまが振り返って、にかっ、と微笑んだ。
「銃……ですか?」
「そうじゃ。そなたは『鉄砲撃ち』じゃからのう。祟り神を鎮めるのに銃が無いとこまるじゃろう?
じゃから、今日は、そなたの銃を探しに行くんじゃ」
「はあ……。でも、あれ? 銀行に銃なんて置いてあるんですか?」
「うんにゃ、そうではない。あの中に入っている店に用があるんじゃ」
「へ? でも、そんな、俺、お金無いですし……」
「いんにゃ、案ずるでない。今日は買うのではないからの」
「…………?」
なんとも合点のいかない比売神さまの言葉に竜伸は、横を歩くかさねの顔を見つめるとかさねは、答える代わりに、着いてからのお楽しみです、とばかりに肩を竦めてみせた。
と、その時背後から聞こえて来た音に、「ん?」と竜伸が振り返る。歩いて来た歩道の脇を路面電車がこちらへ向かってゴトゴトと走って来るのが見えた。
「あれ?」
「どうしたんですか?」
「いや……一瞬、誰かが後ろにいたような気がしたんだけど……。気のせいか……」
竜伸は、きょろきょろと辺りを見渡した。
だが、見えるのは、これまで歩いて来た街並みとこちらに向って走ってくる路面電車のみ。
この歩道を歩いているのは竜伸達三人だけだった。
はてな? となおも首を捻る竜伸へ路面電車が、カランカランと警笛代りのベルを鳴らした。
金属の奏でる軽快なワルツが三人の脇を通り過ぎて行く。
あれぇ……と納得のいかない様子の竜伸に比売神さまは、クスリと微笑み
「そなた、中々よいカンをしておるの」
さすがじゃな、とその小さな背中越しにウインクしてみせた。
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「ふむ、ここじゃ」
三人が立つのは細い路地の先にあるなんという事もない街ビルの壁の前。
金色堂から歩いて十分ぐらいだろうか、本当になんの変哲もない所だった。
重厚なレンガ造りのその壁は、辺りを威圧するかのような存在感を放っているが、だからと言ってそこには、特別、ドアも窓も無かった。
いや、壁しかない。
竜伸が、何とも腑に落ちない気持ちを抑えつつ辺りを見渡すと、目の前の壁と同じようなレンガ造りの建物が路地の先まで延々と続くいているのが見えた。
「ええと……ここですか?」




