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「おう、相変わらず繁盛しておるな」
「ああ、比売神さま! ちょいとそこいら辺に座ってて下さいな。かさね! 竜伸さん! 比売神さまが来たよ!!」
「はーい!」
「は……はぁぁ……いぃ……」
女将さんの声にかさねは元気よく、そして一方の竜伸は青息吐息で応えた。
比売神さまの訪れた朝の金色堂ミルクホールは、朝食を摂りに訪れた通勤途中の客達でてんやわんや。まるで盆と暮れが一緒に来たような状態だった。
そんな客で込み合う店内でかさね、やよい、みくもの三人が昨日の夜に見た例の着物にエプロン、そして今日はそれに加えて首からガマグチを下げた姿で客の相手をしている。
ちなみに首から下げたガマグチには、釣銭用の小銭が入っているらしい。
「ミルクティーとサンドウイッチで十五銭です。ありがとうございまーす!」
「おーい、姉ちゃん。ミルクとあんパンをおくれな」
「はぁ~い!」
「ちょいと、あたしの頼んだ紅茶はまだなの?」
「はーい、少々お待ちを!」
「やよい、ホットサンドとトーストにスープがあがったよ」
「はぁ~い!」
「おーぅい、そこのちっこい嬢ちゃん、お勘定頼むよ!」
「はーい、ええと……ミルクが五銭で……クリームパンが八銭……」
「おい、兄ちゃん! 俺のカツサンドはまだかね? えらく待たせるじゃねぇか」
「しょ、少々、お待ちを……うぅ」
(忘れてました……とは言えないよな。とほほ……)
「竜伸さん! サンドウイッチがあがってるよ! 早く取りに来ておくれ!」
「ちょっと、お兄さん! わたしの頼んだトーストは、どうしちまったのさ?」
「竜伸さん、カウンター空きましたから次のお客さんに入ってもらって下さいね」
「竜伸兄さま、カツサンドのお客さん帰っちゃいました!」
「竜伸さん、ホットサンド三つあがってるんだけどぉ、竜伸さんのお客さんのかなぁ?」
「………………」
(無理ぃぃぃぃ! 俺、飲食向いてねぇぇぇぇぇ!!)
だが、竜伸の心の叫びも空しく、その後もたっぷり一時間このしっちゃかめっちゃかの状態が続き、竜伸は心身共にすっかりへろへろになってしまったのだった。
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「竜伸さん、元気出して下さい。最初は、みんなあんなもんですよ」
「…………うう、マジでごめん」
訪れる客足が落ち着き出した頃合いを見計らって、店を抜け出して来た道すがら、かさねが落込む竜伸を慰めてくれた。
と言っても、かさねだけでなく女将さんややよい、みくも、藤丸も含めて誰ひとり竜伸に苦情を言った者はいなかったし、今もこうしてかさねが竜伸を慰め、励ましてくれているのである。
「ほら、気を取り直して、張り切って行きましょう! 両替屋さんへ、レッツゴー!」
最後にそう言って片方の拳を元気よく上げるかさね。
妙に懐かしさ全開のそのセリフに竜伸の顔にも思わず笑みが浮かんだ。
だが、確かにかさねの言う通り、落ち込んでいてもしょうがない事だ。それに、今日の夜や明日の朝、とまだ手伝う機会はいくらでもあるし、それこそ、祟り神を鎮めるのにしくじれば、いつでも手伝い放題、頑張り放題、金色堂ミルクホールに永久就職ということだってあるかもしれない。
まあ、もっとも祟り神が竜伸を喰い殺さなければ――の話ではあるのだが。
祟り神においしく頂かれている自分の姿を想像して内心冷や汗を掻きつつ「それにしても……」と竜伸は、横を歩くかさねに尋ねた。
「両替屋って?」




