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夕日の国のファンタジア  作者: 生田英作
第1部
23/358

[23]



「話を戻しますけど、穴八幡明神さまが比売神さまに今回の事を?」


「そうじゃ。なんでも、そなたがわらわの使いを終えて穴八幡明神どのの元を出た直後に只ならぬ気配を感じてすぐにそなたを追いかけたそうなんじゃ。

 そしたら、案の定そなたが襲われておったであろう。

 穴八幡明神どのもさすがに慌てたそうでな。それで早く助けねばと、飛び込もうとしておったまさにその時に現れたのがそこなる竜伸じゃ。

 で……穴八幡明神どのはそのとき全てを見たんじゃそうな。竜伸の目が蒼く輝いて祟り神の結界を貫き、投げた石にあっけなく倒される様をな。まさに『鉄砲撃ち』のそれじゃ。

 もし、持っておったのが石で無く銃であったなら、その場で始末が着いておったかもしれん」


 比売神さまは夢でも見るかのように目を細めた。


「しかし感慨深いのう……。わらわが生きておる間によもや『鉄砲撃ち』と再会できるとは」


「じゃあ、比売神さま、竜伸さんが『鉄砲撃ち』ってことは、銃さえ手に入れられれば、祟り神を自分で鎮められるってこと?」


「そういうことじゃ」


 勢い込んで尋ねるかさねに比売神さまはにっこりと頷いた。


「すごい! すごいですよ、竜伸さん! これで現世の国に帰れます!」


 わあい、と歓声をあげ、やよいと手を取って喜ぶかさね。興奮したふたりが竜伸の肩をバシバシと叩き、みくもが女将さんと一緒に「ばんざーい」とはしゃぐ。

 竜伸も嬉しいやら痛いやら。

 比売神さまは、そんな皆の姿を嬉しそうに眺めつつそれでも一つだけ付け加えた。


「じゃが、かさね当然そなたにも手伝ってもらわねばならぬぞ。

 考えてもみよ。竜伸には魔心眼はあるが霊力は無いのじゃ。

 そなたも知っておる通り『鉄砲撃ち』が使う銃は鉛の弾を吐き出すのではない。霊力か魔力を込めて撃つものじゃ。

 霊力を持たぬ『鉄砲撃ち』には霊力を込めた弾丸を用意するべきなんじゃが、あれは作るのに最低でもひと月は掛かるし、元々の魔力を鍛えて、という方法もそれこそ何年も掛かる……どちらにしても、そんな悠長な事はやっておられんじゃろ。つまり――――」



 ――竜伸が銃を操るには、かさね、そなたの霊力が必要なんじゃ。



「竜伸さんが魔心眼で捉え、私の霊力で撃つ?」


「そうじゃ、いやか? 確かに使う霊力は誰のものでも構わん。されどそなたは、せぬでもよいのに自分の無力をこれでもかと責め、ピーピーと泣いておったからの。こうすればそなたも思う存分祟り神に借りを返せるであろう。どうじゃ?」


「ピーピーなんて……」


 と、かさねが消え入りそうなほどの小さな声で抗議する。

 しかし、そのすみれ色の瞳は輝きに満ち、かさねの気持ちを代弁しているかのようにきらきらと輝いていた。

 彼女の顔を見つめていた竜伸に気が付くとかさねは、恥ずかしそうに頷いてみせる。

 比売神さまは、クスリと微笑んだ。 


「皆は、どうじゃ?」


「ふふふ、いいに決まってますよぅ」


「みくもも、ガンバりまーす!」


 やよいとみくもがそれぞれ応えてみせる。

 いつの間にかカウンターの中にいた藤丸がニコニコと微笑みながら、そんな仲間達の様子を見つめていた。

 皆の返事を聞き、比売神さまは最後に女将さんに無言で問い掛ける。

 女将さんは、比売神さまにこっくりと頷き立ち上がった。


「よし! 決まりだね」



***************



 それからしばらく、俄然ヤル気に満ちた皆の様子をやさしげな笑みを浮かべて眺めていた女将さんだったが、部屋の隅の誰もいない暗がりにチラリと視線を投げて一言だけ聞きとれない程の小さな声でこう付け加えた。


「あんたもそれでいいね?」


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