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「うむ、そうじゃった……。竜伸の事で皆に伝えねばならぬ事があるんじゃ」
「「竜伸さんのこと?」」
訝しげに見つめるかさねとやよいに比売神さまは大きく頷き返し、まだほのかに赤い顔のまま竜伸をちょっぴり恨めしげに見つめた。
「今、皆が悩んでおったのは、限られた時間で祟り神を鎮めねばならぬのに肝心の竜伸に霊力も無ければ、知識も経験も何も無い。はて、どうしたものかのう……、ということじゃろう? そうであろう、さくや?」
「ええ、その通りです。やはり、肝心の竜伸さんが霊力も知識も無いまったくの素人っていうのが、どうにもこうにも……。霊力が無いから術は使えず、祝詞をあげ、『祭り』をするにも素人だから到底出来ず、と言ったところで」
「まあ、そんなところじゃろうと思うておった。じゃが、竜伸に霊力ではないが別の力があるとすればなんとする?」
皆が顔を見合わせた。
「霊力以外で、祟り神をも鎮める力って言うと……」
やよいのつぶやきにかさねはぴんと閃いたらしい。
「魔力……。『鉄砲撃ち』……『魔心眼』!」
「ご名答。竜伸は、黄泉の国では死に絶えたと言われている『鉄砲撃ち』、『魔心眼』の持ち主らしいんじゃ」
きょとんとする竜伸に皆の視線が集中する。
比売神さまは、よっこらしょ、とよじ登るようにして椅子に座ると話を続けた。
「竜伸には、ちと、ぴんと来ぬじゃろう。じゃが、簡単に言うとこういうことじゃ。
かつてこの黄泉の国には『日女の乙女』と並んで『鉄砲撃ち』と呼ばれる者達がおってのう。彼の者達は、乙女や他の祓い屋連中と同様に怪異を祓い、神を鎮めたが、そのやり方は先の二つとは大きく異なる。乙女が祭文を唱えて方術を繰り出し、祓い屋や宮司が祝詞をあげて祭りを取り行うといった手間を掛けるのに対して『鉄砲撃ち』は己の魔心眼を頼りにたった一発、銃を撃つだけじゃ。
たった一発で、怪異も神も一瞬でけりが着く。彼の者達の持つ魔心眼とはのう、怪異も神も逃れられぬ何もかもを見通す真実の目なのじゃ。その目の力の前には、どのような怪しの術も堅固な結界も無効。そう、それゆえにまさに桁違いの力なんじゃ」
「その桁違いの力が、俺に……」
「ある」
頷く比売神さま。その顔は、先ほどとは打って変わってどこまでも真剣そのものだ。
「で、竜伸、確認なんじゃが、そなたと祟り神とのやり取りについてちと尋ねたい。そなたは、祟り神に石を投げつけたそうじゃな?」
「ええ、たしか二つ投げました。……でも、最初の一発目は全然違う方向に飛んで行って、二発目で当たったんです」
「で、その二発目で祟り神は、倒れたんじゃったな?」
「はい、こめかみのあたりに当たって、こう、どさぁ、って」
「ふむ」
比売神さまは逡巡するように眼を閉じ、唇に人さし指を当ててしばし黙考する。
やがて、眼を開くとさらに竜伸に尋ねた。
「竜伸、そなたの投げた石は『当たった』のか、それとも『当てた』のかはっきり覚えておるか?」




