[20]
「えええええぇぇぇぇ! 神さまなんですかぁぁぁぁ!!」
目を剥く竜伸に、女将さん、かさね、やよい、そしてみくもが「うんうん」と首肯してみせる。
竜伸は、なおもみんなにアイコンタクトで「本当に?」と尋ねつつ、そんな目の前のゴスロリ衣装の童女の姿をまじまじと見つめる。
うーむ……どう見ても……
「ただのガキだ……」
ぽつりと漏らした竜伸の言葉に皆が凍りつく。
目の前の童女の肩がふるふると震え出して、何かがピーと吹き出すような音が聞こえた気がした。
「こりゃああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
小さな手をぶんぶんと振って比売神さまは、恐ろしくかわいらしい声で竜伸を叱りつけた。
「わ、わらわは、今年で三百と四十のれっきとした神、日女の乙女を祀る黄泉の国の国津神じゃ!
まあ、確かに他の神々に比べて若いと言えば若いんじゃが……。
じゃ、じゃが、断じて、断じて、ガキではない! ないったら、ないんじゃ!! わあぁぁぁん!!!」
「え、ええと、それは……つまり……」
「わらわは、神という事じゃ!」
「で、その歳が……」
「若い! わらわは、若い神じゃ! 人間で言うなら花も恥じらう乙女じゃ、乙女!!」
「ええと……それは、これから成長して大きくなる、ってことですか?」
「…………」
理解がいまいち追いつかない竜伸に比売神さまは、顔を真っ赤にして黙り込む。
竜伸がその顔を覗き込むようにして恐る恐る窺うと、真っ赤な顔の中でその両の瞳が怪しげに光った。比売神さまが、ゆらぁり、と睥睨するように一同を見渡す。
「かくなる上は、是非も無い……わらわが、子供ではない事をここに示す! わらわは……脱ぐ!」
比売神さまは、しゅるりと腰のリボンをほどくと、手を伸ばしてワンピースの背中のファスナーを勢いよく引き下ろす。
「ちょ、ちょっと! 比売神さま! なに考えてるんですか!!」
「落ち着いて下さぁい!」
「竜伸さんも、比売神さまを止めて下さい!」
「へ? ……ええええぇぇぇぇぇ!」
そんな事を言いつつかさねが比売神さまを背後から抑え込み、やよいがぶんぶんと振り回される小さな手を握ると、その隙にみくもが、かさねと比売神さまの体の間に手を突っ込みファスナーを上げ……竜伸は、その傍でおろおろと成行きを見守る。
そもそも、服を脱いだところで子供の姿であることに変わりはないような気がするのだが、それは黙っていた方がお利口さんというものだろう。
神さまの考える事は、やはり人間とは違うらしい。
「わああぁぁん。悪いのは、竜伸なんじゃぁぁぁ!」
「まあまあ。落ち着いてください」
「深呼吸、深呼吸ですよぉ、比売神さまぁ」
やいのやいのと大騒ぎの一同に女将さんは苦笑しつつぱんぱんと手を叩いた。
「ほらほら、みんなもいい加減におしよ。比売神さまも、その姿は、そもそもがそういうもんでしょう。人間じゃないんですから。それを現世の国から来た竜伸さんに言っても……って話です。そうは思いませんか?」
「うびゅう……それは、そうじゃが……」
「で、ご用は何なんです? まさか、そんな用事でいらした訳じゃないんでしょう?」




