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「え? なんでですか?」
「まあ、考えてもみよ、竜伸――」
比売神さまは、サンドウィッチを頬張りつつ片方の目をつぶった。
「これは、恐らくじゃが……『要石』を盗み出したという久子の友人みゆきは、その時一人ではなかったのではないか、とわらわは思うておる。『要石』のような魔力の塊りを誰にも気付かれずに盗み出すなどどだい不可能じゃ。協力者があったと見る方が自然じゃろう」
「はあ……」
「そして、久子の話とその成り行きから見て、その協力者こそが今回の事件の黒幕に相違あるまい。
で、ここからが肝心じゃ、竜伸。問題は、そやつらの目的が何なのかという事なんじゃ」
「あっ――」
「じゃろう? 今の段階では、そやつらがどこの誰で、なんの目的を持っておるのか、そして肝心のみゆきの居場所もわからんのじゃ。この状態で『要石』だけ持って帰って来ても何の解決にもならんじゃろう? そもそもじゃ――」
比売神さまは、サイダーを一口飲んでかわいらしい吐息を一つこぼす。
「なぜ秋川炭山の『要石』だったのかも分らんのじゃ。久子も言うておったが、北畠侯爵家は、秋川炭山以外にも四つの鉱山を持っておるし、あの辺りには他にも無数の鉱山がある。
しかし、他の鉱山の『要石』は盗られておらん。盗られたのは、秋川炭山だけじゃ」
「秋川炭山の『要石』じゃなきゃダメだった……ってことですか?」
「いや、それは分からぬ。そうかも知れぬし、そうではないかも知れぬ」
「だから、その辺りの事は相手に聞いてみよう――って事だね」
ゆきのが、頷くと皆も一様に頷いた。
「相手に聞く……んですか?」
「そういう事じゃ。で、それはそれとして……かさね――」
「はい。竜伸さん、これ」
かさねが、テーブルの下から細長い包みを取り出した。
「え? これって……」
竜伸は、かさねから手渡された包みを慌てて解く。
中から現れたのは
「三八式歩兵銃……俺の銃だ! かさね、これは?」
「はい。金村比古神さまが、部品を拾い集めて直して下さったんです。これで、また一緒に戦えますね」
「……ありがとう、かさね」
あっ――
テーブルの周りの一同の顔を見回して竜伸は、慌てて付け加えた。
「じゃなくて、みんなだよな。ありがとう、みんな」
「ふふふ。いいのよぅ、竜伸くん。だってぇ――」
「かさね姉さまが、敷島屋さんたちと一緒に部品を拾ったんです」
「だってな。誰よりも熱心だった、って金村比古神さまが感心してたらしいぜ。ですよね、比売神さま?」
「うむ。お陰で部品が欠けることなく全て集まった、と言うておったぞ」
「だそうだよ、竜伸」
「かさね……」
かさねの顔が真っ赤に染まった。
竜伸は、かさねの両の手を取り、そのすみれ色の瞳を見つめながら改めてもう一度言った。
「ありがとう、かさね」
「……はい」
ゆきのとやよい、そしてみくもと、ためらいがちではあるが久子も「わぁ」と囃す。
比売神さまが、
女将さんが、
あやのさんが、
藤丸が、
しみじみとした面持ちで微笑んだ。




