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「ええと、その、なんていうか……」
少女は竜伸の問いかけに半ば口を開きつつ、その割にはなんだか言いづらそうにもじもじとしている。
お姉さん座りでもじもじする困惑顔の少女。
そして、彼女の向かいで、正座で返事を待つ少年。
通りがかる人々が訝しげに二人を見ている。
人々の視線に耐えつつ竜伸は根気強く彼女の返事を待った。
しばらくして、少女が意を決したように口を開きかけた、その時―――――
『グー』
少女のお腹が鳴った。
互いを見つめる二対のまなざし。
竜伸は笑いそうになるのを懸命に堪える。
潤んだ瞳で上目づかいに見つめる少女の顔がみるみる赤くなり、やがて耳までまっ赤になった。
少女は真っ赤になった顔を両手で覆うと「きゅぅぅぅん」と恥ずかしそうに呻いた。
(……だめだこりゃ)
やれやれ、と竜伸は心の中でため息を吐く。
だが、すぐに、ここがどこかという事以外にも尋ねるべき重要な事がもう一つある事に竜伸は気が付いた。
(この子の名前、聞いて無かったな……)
であるならば、と竜伸は自分から自己紹介をする事にした。人間できる事から手を着けていくべきだろうし、彼女の名前を知ることだって重要な事に違いない。
いや、すごく重要だ。
まあ、あまり状況としてはふさわしくない気もするのだが……。
「ええと……ここがどこかは、ひとまず置いといて。俺、いや、あの……僕の名前は、神代竜伸。下の名前を音読みで『リュウシン』と周りのみんなは呼んでいるので、もしよければ、そっちで呼んで下さい」
それだけをなんとか言い切って、竜伸は少女へにっこりと笑ってみせた。
精一杯丁寧に言ったつもりだが、口調と笑顔がたどたどしいのはご愛敬だろう。
一方の少女の方はというと、伏し目がちに竜伸を見つめて、しばらくなにやらもじもじとしていたが、やがてゆっくりと恥ずかしそうに微笑んだ。
「ご丁寧な紹介をありがとうございました。私の名前は、かさねと申します。いまさらですけど、助けて頂いて本当にありがとうございました。ふつつか者ですが……その、よろしくお願いします。竜伸さん」
彼女は迷うことなく下の名前で『リュウシン』と呼ぶ事にしたらしい。
呼び方もさることながらと竜伸は思う。
紹介の部分に恥ずかしがり屋を追加すべきだよ、と。
しかし、そんなことよりも、
「かさね……さん?」
竜伸の問いかけに少女――かさねは、こっくりとまた頷いた。
「ええと、こんな事聞いていいのか分からないけど、かさね……さんって下の名前だろ、じゃなくて、ですよね。名字を教えてもらってもいい――ですか?」




