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て、て、て――
「てぇへんだぁぁぁぁぁ!!!」
誰かが勢いよく店の中へ転がり込んで来た。
「おや、うわさをすれば、松さんじゃないのさ。どうしたね? ゆきのは、一緒じゃないのかい?」
女将さんが微笑みかけたのは、床に両ひざを付き肩で息をする短髪の少年。
歳の頃は、竜伸やかさね達と同じ十代半ばくらいだろう。
着物の上に着た紺色の半纏が、肩の下までずり下がっていた。
やよいが慌てて持って来たコップの水を喉を鳴らして飲み干すと、松さんと呼ばれたその少年は、「いや、それが――」と話し始めた。
「どうせまた揉め事じゃろ?」
「ええ、そうなんです、姐さんが……って、こりゃあ、比売神さま、お久しぶりで――」
「いや、いいから――」
話の続き!!
女性陣全員に突っ込まれ、松は、てへっ! と額を叩いた。
「すいやせん。実は、その――姐さんの悪い虫がまた始まりやして……」
あちゃぁ……
竜伸以外の一同が天を仰いだ。
「悪い虫?」
竜伸が傍らのかさねへ視線を向けるとかさねは、苦笑気味に肩を竦める。
「賭場破り……ゆきのさんは、バクチの名人なんです」
「いえいえ、そうは言っても今日の賭場破りは、いつもとは、ちょいとばかし趣きが違っているんでさぁ」
「「「?」」」
「いやいや、いかな皆さんとて、今回ばかりは驚きますぜ」
「これ、松。もったいぶっておらんと早く言え」
「いえいえ、それが……」
一同が固唾を呑んで見守る中、松はとっておきの内緒話を打明ける子供のように瞳を輝かせた。
「原因は、女の子なんでさぁ」




