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「それで――依り代をぶつけられた貧乏神さまが電信柱から転げ落ちて、貧乏神さまを追いかけてた松さんも一緒に……って訳だね。で、ゆきのはどこへ行くか言ってなかったんだね?」
ゆきのに買ってもらったというラムネとキャラメルを頬張りつつ式神の男の子と女の子は、女将さんの問い掛けに「ごめんなさーい」と肩を落とす。
二人の頭を撫でてやりながら「まったく、しょうがないねぇ」と眉を顰める女将さんにやよいがそのおっとりとした顔をほころばせ、彼女の両隣に座るかさねとみくもも顔を見合わせクスリと笑った。
が、何が何やら分からないのは竜伸だ。
そもそも――
「なあ、かさね。ゆきのさんって、あの『仕事の都合で今はいないよ』って女将さんが言ってた人か?」
そう尋ねた竜伸に、かさねはそのすみれ色の瞳をぱちくりとしばたたかせてしばし沈黙した後、
「「あーっ!!」」
と、傍らでやり取りを聞いていたやよいと声を上げた。
百貨店で買って来たばかりのビスケットをかじりつつ紅茶を飲んでいた比売神さまもテーブルの向こうから「そう言えば、名前だけじゃったのう」とのんびりと応じる。
かさねが、慌てて腕を組む女将さんの袖を引いた。
「女将さん! 女将さん!!」
「何だい? 大きな声出して」
「竜伸さんに話してません!」
「え?」
「ゆきのさんといつきさん!!」
へ? と首を捻って、かさね、やよい、みくもの三人の顔をしばし見つめた後、女将さんもポンと手を打った。
「そういや、そうだったね!!」
「?」
と、皆の様子に困惑気味の表情を浮かべる竜伸に「いやね――」と女将さんは、着物の袖を振り振り、
「ごめん、ごめん」と苦笑した。
「なんだかんだで、あたしもすっかり話すのを忘れちまってたんだけど……」
金色堂にいると言うもう二人の仲間。
彼女たちの通り名は――
「「「範田のゆきのさん」」」
と――
「「「三佳上のいつきさん」」」
三人が女将さんに代わって嬉しそうにその仲間の名前を、
そして、女将さんが三人の後を受けてにっこりと微笑む。
「で、さっきあたしらが話していたゆきのは『一人働き』をしながら地方を回っている子でね。
いつもは、お盆の頃にこっちに帰って来るんだけど、この間の『邪神』の事もあって、今年は早めに帰って来る事にしたんだよ。腕も立つけど、なにより仲間想いのやさしい子でね。まあ、ちょっと口が悪いのがタマにキズなんだけど……。歳は十九で、金色堂の長女みたいなもんだね」
「ゆきのは、美人じゃぞ。口は、悪いがの」
「はい。ゆきのさんは、むかし『船場小町』って呼ばれてたらしいからぁ。口は、悪いけどぉ」
「でも、ゆきのさんは、親切でとても面倒見のいい人なんですよ。口は、悪いですけど」
「みくも、ゆきの姉さま大好きです!」
そして、
「で、もう一人の、いつきの方はね――」
と、女将さんが、話しかけたその時だった。




