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*Shiki*  作者: アカ
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第5話:事件

 ナツメとディランに案内されて、村の中で一番大きな家までやってきた。どうやらここが二人の家らしい。

 実は二人はお金持ちなのかな、と考えたが、失礼なことにとても金持ちのような顔には見えないので、そうではないなと思った。

「ただいま」

「お邪魔します……」

 ナツメとディランに続き、ハルキも家にあがった。 奥から一人の中年男性が現れた。

 髪の毛は一本も生えておらず、口元に紳士的な髭を生やしている。少々筋肉質な体つきをしているところを見ると、何か武術をたしなんでいるんだろうと予想できた。

「おかえりディラン、ナツメ。遺跡の様子はどうだった?」

「遺跡は問題なかったけれど、それとはまた別に問題が……」

 ディランはハルキを引っ張り出した。

 ハルキは軽く会釈をしておいた。

「この少年は?」

「遺跡で魔物に襲われていたのを助けたんだけど、自分は別の世界から来たと言い張るんだ」

「別の世界……」

 男はハルキをじっと見ると、少し顔をしかめた。

 ――もしかして、そんなに俺を家に入れたくないのかな? とハルキは心配なったが、男はすぐに優しい表情を見せた。

「君、名前は?」

「は、ハルキですけれども……」

「ハルキ君か。とりあえず今日はウチに泊まっていくといい」

 そして家の中を案内され、リビングらしき所に連れて来られた。

 それなりの広さの部屋に丸いテーブルが置いてあり、床には良さそうな素材で作られた絨毯、その他家具やインテリアがもろもろ。

 ハルキは男に座るように言われて、適当な椅子に腰掛けた。

「私はソンチョ・ダーサ。このパーサ村の村長です」

 ハルキはネーミングに驚愕した。

 ――ダジャレじゃないか。

「ハルキ君、君はその……別の世界から来たと、そう言うのかい?」

「多分別の世界からだと思うけど……、ほら、やっぱり自分自身でも信じられないし、でもナツメとディランさんは俺の住んでいた場所なんか知らないって言うし、魔物はいたりしてもう大変な感じだし……」

 改めて説明しようとすると何故か頭がこんがらがって言葉がおかしくなった。

 ソンチョにも東京や日本のことを知っているか聞いてみたが、やはり何も知らなかった。

 その時、ハルキの腹が鳴った。

「この話はまた後でしようか。今ナツメとディランにご飯を作らせるから、少し待つといい」

「ところであの二人って……?」

「ああ、私の子供だ。妻は既に亡くなっていて、今は私達三人で暮らしている。君の家族は?」

「俺、孤児だから親も兄弟も知らないよ」

「それは悪いことを聞いたな……」

「いいよ、他の孤児達が家族みたいなものだから寂しくなかったし」

 ふと見ると、ディランとナツメが二人で調理している光景が見えた。

 ディランは器用に包丁を扱っているが、ナツメのほうは卵割りに苦戦しているみたいで、さっきから白身が辺りに飛び散っている。

「……ウチのナツメは少々不器用な子でして。いや、料理の味自体は普通だから問題ないハズだけど」

「ソンチョさん、今卵の殻を取り除くのが面倒だからって、そのまんま混ぜ込んだっぽいけど……」

「……うむ」

「見なかったことにします……」


 料理が運ばれてきた。意外なことに見た目はまともだった。おそらくディランの功績だろう。

 しかし玉子焼きを口にした時、砂を噛み砕くような不快感を得た。

「ハルキ君、明日ニルクという町に行きなさい」

 ソンチョが玉子焼きを口に含みながら言った。

「ニルクには私の知り合いで、色々と物知りな方がいるか――いるから、その人に会いに行くといい。きっといい知恵を貸してくれる」

 ソンチョは話している途中で玉子焼きを吐いた。理由は言うまでもないが。

「ニルクまではディランとナツメ、お前達が案内をしてあげなさい」

「ええー」

 明らかに嫌そうな声をあげたのはナツメだった。

「わたし達がいなくなったら遺跡の見回りはどうするのよ?」

「別にたまに見回りをするだけで大丈夫だから、安心して行ってこい」

 そういえば、その遺跡とやらは何のために存在するのだろうか。ディランとナツメも知らなかったが、もしかしたらソンチョ村長なら何か知っているかもしれない。

 ハルキは早速聞いてみたが、ソンチョ村長もよく知らないらしく、古代に建てられた遺跡であること、そして今日までダーサ一族が遺跡を護り続けてきたことぐらいしかわからず、遺跡の存在する意味はさっぱりだった。

 ――その時、外から悲鳴が聞こえた。一人ではなく、大勢の悲鳴が。

 ソンチョ達は顔を見合わせ、すぐに現場へ向かうことにした。

 ハルキも行こうとしたが、ソンチョに止められた。

「君は待ってなさい。何があるかわからない」

「でも――」

「魔物かもしれない。君が来ても危ないだけだ」

「じゃあ待たせていただくね。玉子焼きは残しておくから」

「いや、遠慮せずに食べているといい」


 ソンチョとディラン、そしてナツメの三人は驚愕した。

 悲鳴がした所――村の入り口へ行くと、血まみれになった村人と、魔物の大群がいた。

 薄汚れたような緑色の体、全身を覆う鱗。鞭のようにしなる尾、背丈は並みの成人男性ほどの大きさ。右手に鋭利なつるぎ、左手には円形の盾。そして顔が……トカゲだった。

「リザードマン……!」数十頭はいるであろうリザードマンを見て、ナツメは舌打ちをした。

 リザードマン達の目の前に一人の見知らぬ男が立っていた。褐色の肌をしていて、やたらと目立つ派手な黄金の鎧を着ている。そして……耳が長い。

 この世界にはエルフが存在していた。この世界のエルフは、人間より寿命が遥かに長く、知性的で、色白であり、美形が多く、そしてやたらと妄想する種族だった。

 しかしこのエルフは褐色の肌をしている。このようなエルフを、人々はダークエルフと呼んで区別した。

 派手な鎧を着たダークエルフの男は、刃だけで二メートルはあろう長い剣をかざした。刃先には赤い液体が付着していた。

「お前、なんで村の人を傷付けた!」

 ディランが叫んだ。

「俺達の姿を見るなり、うるさく叫んでうるさかったから、剣で刺してみただけだ。大人しくしてりゃ何もしなかったのに。それでちょいと聞きたいことがあるんだが、これ以上怪我人を出したくないなら正直に答えろ」

 三人は黙って頷いた。

「鏡を……知らないか?」

「鏡? 鏡なんてたくさんあるが……」

 ソンチョは大切な村人を傷付けられて大人しくしていたくなかった。しかし、このダークエルフに逆らうことができなかった。雰囲気で分かる。格好は派手で変だが、相当な実力を持っている、ということが。鏡なんかで事が丸く収まるなら、ソンチョとしてはありがたかった。

 しかしダークエルフは首を横に振った。

「ただの鏡じゃない。聞いた話によると、別世界に行くことができる不思議な鏡らしい」

「別の世界……?」

「鏡の名前は、たしか……精霊の鏡、だったかな。何か知らないか?」

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