第4話:宿泊
昼過ぎ、木々の隙間から眩しい光が差し込む。
どうやらついに森の出口に着いたようだ。
ハルキが森から出ると、そこには広大な草原が広がっていた。
「この辺りまで来れば、あまり魔物は出ないだろうから安心しろ」
「ねえディランさん、村はどこ? まだ着かないの?」
「ああ、全然まだだ。もう少し頑張れ」
ハルキは肩を落としつつも頑張って歩き出した。
そして気付けば陽が沈みかけていた。
今日は朝から休みなしでずっと歩いてきた。体力のないハルキは既に疲れ切っていた。
「あの、まだ村に着かないの? ボクの体は疲労によりクタクタ状態なんですけど……」
「うるさいわね。もうすぐ着くから頑張って歩きなさいよ」
「もうすぐ? もうすぐってどれぐらいの時間?」
「ああもう、本当にうるさい。一時間ぐらいじゃないの?」
「一時間かぁ。でもそれぐらいで着くって言うなら俺は頑張るよ。精神力回復! モチベーションも最高潮に達する!」
ハルキはノリノリで流行りの歌を口ずさみながら歩き出した。
一時間後、ようやく村が見えてきた。ハルキは
「やっと休める!」と喜びながら村に向かって駆け出した。
村には木造建築の民家がに並び、あちこちに畑があった。
暗くなってきたため遊んでいた子供達は家に帰り、畑仕事をしていた大人も晩飯を食べるために仕事を切り上げた。
「なんか田舎って感じだね」
ハルキがそう言うと
「田舎で悪かったわね」と怒りっぽい口調でナツメが答えた。
「いやいや全然悪くないよ。むしろ俺、田舎って結構好きなんだ。なんていうかさ……ナチュラル! って感じがしてさ、空気も美味しいし、ほのぼのしてるし。色々挙げていったらキリがないけど」
「あっそ。あんたが田舎好きなんてことは別にどうだっていいのよ。じゃあ、さようなら」
ナツメとディランはハルキを置いて立ち去ろうとした。
しかしハルキは慌てて二人を引き止めた。
「なんでここで別れなきゃいけないんだよ」
ハルキはディランの腕にしがみつき、涙ながらに訴えた。
「いや、そんなこと言われてもなあ……。村まで案内したんだから、あとは宿に泊まるなり何なり、お前の好きなように行動するといいだろ」
しかしハルキはお金なんか持っていないため、宿に泊まることはできない。それどころか水を買うことすらできない。ここで一人になったら、お腹を空かせながら野宿をするしかない。
そんなの嫌だ。雑魚寝でもいい、一人で外に寝たくない。
だからハルキは二人の家に泊めてくれと頼み込んだ。
ナツメとディランは完全に困ってしまい、小声で話し合った。ハルキはOKが出ることを祈った。
「ダメ」
現実は厳しかった。
ナツメが言い放った
「ダメ」の一言で、谷底に突き落とされたような気持ちになった。
自分は獅子の子じゃないから、崖から這い上がることなんてできない。落とされたらぺっちゃんこになって終わりだ。
二人は再度別れの言葉を告げて立ち去ろうとするが、ハルキも再びディランの腕にしがみついた。
ここで諦めたら本当に終わりだ。こうなったら獅子の子に負けんばかりの勢いで崖を登ってやる。
そんな闘志を感じるほどに、ハルキの目はギラギラと光っていた。
「共に長い一夜を過ごした仲じゃないか。忘れたの? あの夜、俺達三人は果物ナイフでも切れない深い絆を得て――」
「えらく中途半端な絆だな……」
「いや、今は絆のレベルなんてどうだっていい! 困っている人間がいるっていうのに、それをキミ達は見捨てるというのか? か弱きボクを、魔物という危険な生き物がいる外に捨てていくっていうのか? そんなのって……そんなのってあんまりじゃないかーっ!」
ハルキのわざとらしい抗議に二人はうんざりした。いい加減構うのが嫌になってきた。
早くハルキを置いて帰りたいが、いまだにディランの腕を掴んでいるから、この場から離れることができない。スッポンのごときしつこさ。
ディランはやれやれとため息をつき、
「まったく、仕方ないな……」と観念した。
「ちょ、ちょっと兄貴! わたしはこいつを泊めたくないんだけど!」
「正直言って俺もあまり泊めたくないんだけど、ハルキだって困っているんだから、一日泊めるぐらいなら構わないだろう?」
なんだか散々な言われようで落ち込むが、頼れる人が他にいない以上こうするしかなかった。
「ほら、俺達の家に連れて行ってやるから来いよ」
ハルキは嫌々案内してくれる二人に感謝しながら、後を付いていった。