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*Shiki*  作者: アカ
3/8

第3話:初戦

 ハルキは心配だった。

「このシキって世界には、美味しい食べ物はあるの?」

 食事に関して。

「ラーメンはある? 肉じゃがは? お蕎麦は?」

「そんなもの聞いたことないな」

「うわぁん、なんてこったい」

 ハルキは地面に膝を着けて落ち込んだ。

「神様、ボクはあなたを恨みますよ! ラーメンも肉じゃがもお蕎麦もない世界なんて滅びてしまえ! っていうかそんなの自分で料理すればいいんだけどね!」

 ハルキは料理が得意だ。

 ハルキが暮らしていた施設には、孤児がたくさんいた。

 大半は小学生かそうでないかの年齢で、自分は年上のお兄さんとしてその子達に料理を作ってあげていた。そうしているうちに料理の腕が上がっていたのだった。

 とその時、草の中から一匹の魔物が飛び出してきた。

 張りと弾力性のありそうな体質で、ゼリーのように体が透き通っていてボールのような丸い形をしている。いわゆるスライムと呼ばれそうな魔物だった。

 ナツメとディランは既に構えた。

「兄貴、わたしがあいつを撹乱するから、その隙にキメちゃって」

「わかった、頼むぞナツメ」

「んじゃ、二人ともファイトー」

 二人はハルキの気の抜けた声に反応した。

 ハルキはいつの間にか遥か遠くにある木の後ろに隠れ、こちらの様子を伺っていた。そして手を振りながら

「俺は二人を精一杯応援するよ。だから負けないで、ファイトいっぱつだ!」と声をあげる。

 しかしナツメは問答無用でハルキを引っ張り出した。

「せっかく剣を貸してあげたんだから、あんたも少しは戦いなさいよ」

「いや、だって魔物って怖いじゃん。怪我したら痛いじゃん。そして俺は一般人だから弱いよ」

「グチグチうるさいわね。戦いなさいって言ってるでしょうが」

 ハルキはナツメに突き飛ばされ、魔物の目の前に来てしまった。

 魔物と目が合う。とりあえず愛想笑いをして、数歩下がった。

「こ、怖いです! ナツメ様、助けてください!」

「それぐらい自分で倒しなさいよ馬鹿。ぶっ飛ばすわよ」

「訂正します、あなたの方が怖いです!」

「……燃やすわよ?」

「ごめんなさいッ!」

 ナツメの殺気を感じたハルキは渋々と剣を取り出した。

 剣なんか持ったことすらないため、適当に構えてみる。

 ……ふむ、なかなかキマっているんじゃないか?

 心の中は謎の優越感に満たされた。

「うわ、素人の構えよ」

 しかし二秒でその気持ちを粉々にされた。

 突然魔物が体当たりをしてきた。張りのある弾力性に優れた体はハルキを突き飛ばし地面に転ばせた。

「ば、バスケットボールを投げ当てられた気分だ! 助けてくださいお願いしますディラン様!」

 今度はディランに助けを求めたが、ディランは首を横に振った。

「そいつはあまり強くないから、お前一人でも勝てる筈」

「あんまりだよ! バスケットボールってわりと痛いんだよ! 凶器になりかねないんだぞー!」

 ハルキが文句を言っている間に魔物は接近していた。

 ハルキは体勢を素早く立て直し、右手に剣を持った。

「くらえっ、俺の一撃を――!」

 持てる力の全てを剣に込め、一歩踏み出した。

「ぎゃふん」

 しかし再び体当たりをくらった。

「カッコつけたのにダサい結果に終わったわね」

 ナツメの一言が胸に突き刺さる。

「もういや……お願いだから助けて……」

「へたれてるんじゃないわよ」

 ナツメの二言目は胸を深くえぐる。

「それならせめて助言をください……」

「弱いけど頑張って、弱いけど」

 やたらと弱いを強調され、心に大砲を撃たれたような感じになった。

「とにかく頑張れハルキ」

 頑張れ。

 ディランの“頑張れ”は嫌味も何もないない一言だった。

 あなたのお言葉は冬に入る露天風呂だ。暖かくて体全体に染み渡る。そう思った。

 ハルキは今一度やる気を出し、剣のグリップを強く握り締めた。

「今度こそいくぜー!」

 ハルキは足元の砂を蹴り上げた。砂は魔物の目に入り、魔物はジタバタと暴れた。

 魔物が隙だらけになったところでハルキは跳んだ。

 そして相手の体をめがけて剣を一気に振り下ろす。

 魔物の体は真っ二つに切り裂かれ、そのまま動かなくなった。

 ハルキは魔物を倒したことを確認すると、嬉しさのあまり子供のようにぴょんぴょんと飛び跳ねながら喜んだ。

「見た見た? 今の俺の華麗な一撃を! 蝶のように舞い、蜂のように刺しちゃったよ!」

「はいはい、よかったわね」

「じゃ、行こうか」

 しかし軽く流されてしまった。

「ちょ……ちょっと二人共! もっとこうさ……『やったねハルキ、見直したよ! スッゴくカッコ良かった!』っていうようなお褒めの言葉はないの?」

「ないわね」

「そんな! じゃあせめて初めて魔物を倒した記念に何かくれるとかさぁ」

「まったく……わかったわよ。その剣をあんたにあげるからあまり騒がないでちょうだい、他の魔物が来るかもしれないから。いいでしょ兄貴?」

「ああ、別に構わないけど」

「えへー〜、ありがとう二人共!」

 ハルキはステンレス製の剣を貰った。

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